ウィーンツアーの帰国便の大トラブルからようやく帰国した翌9月10日、私の修士論文のテーマであったEUアップル裁判の最終判決が出され、第一審で勝訴したアップル子会社とアイルランド側が逆転敗訴し、約2兆円の追徴が決定したと言うビッグニュースが入りました。
その日経新聞の記事です。
「欧州司法裁、Appleに2兆円追徴判決 法人税優遇巡り
【ロンドン=湯前宗太郎】欧州連合(EU)の欧州司法裁判所は10日、アイルランドが米アップルに適用してきた法人税の優遇措置に関し、違法な補助に当たるとした欧州委員会の判断を支持する判決を下した。司法裁は同日、制裁金をめぐる米グーグルの主張も退けた。巨大テック企業に厳しい司法判断が示された。
欧州委はアップルに最大130億ユーロ(約2兆円)に利息分を加えた額の徴収を進めてきた。司法裁は欧州委の追徴を認めた形だ。
アップルは2018年に追徴課税の「仮払い」で合意し、143億ユーロをアイルランド政府に支払い済みだ。今回の判決に伴うアップルの業績への影響は限定的とみられる。
第三者が開いた「エスクロー勘定」で管理しており、アイルランド政府は判決を受けて同勘定から資産を移す手続きを始めると発表した。アップルの23年9月期の純利益は969億9500万ドル(約14兆円)だった。2兆円は年間利益の1割強にあたる。
1991年と2007年にアイルランド政府とアップルは、税負担を軽くするための取り決めで合意した。アップルはアイルランドに法人を設立し利益を集中。国外の租税回避地(タックスヘイブン)にあるぺーパーカンパニーも活用して、同国の法人税の対象にならないようにしていた。
アイルランドの法人税率はもともと12.5%と諸外国に比べて低い。税務当局が承認して実施した税優遇によって、アップルは大きな恩恵を受けた。同社が欧州で上げた利益に対する実質的な税負担率は、14年にはわずか0.005%だった。
欧州委はテック企業が節税手法を駆使して巨額の利益をあげていると問題視した。アイルランドのアップルへの優遇措置は、EU競争法(独占禁止法)が禁じる不当な補助金を出す行為にあたるとして、16年に過去の優遇分と利息分を追徴課税するよう指示した。
アイルランドとアップルはこの決定を不服として、法廷闘争に突入していた。20年に一審の一般裁判所が追徴課税の指示は無効とした。今回は一審の判決が覆った。司法裁は10日の声明で「本件の最終的な判断だ」とした。
EUのアップルへの締め付けは強まっている。欧州委は3月、音楽ストリーミング配信市場で支配的地位の乱用があったとして、同社に18億ユーロの制裁金を科すと公表した。6月にはアップルがデジタル市場法(DMA)に違反したと暫定的に認定した。DMAの初の違反ケースとなった。」
このEU委員会とアップル・アイルランドとの裁判の第一審ではアップル側の明からさまで大胆な税逃れが認められ、EU委員会が敗訴しました。これに対し、私は、一般的市民感覚として納得がいかず、その判決内容を詳細に分析し、その論理的問題点を批判的に検討しました。そして、この論争が最終的に、どのような形で結着するのか、ずっと気になっていました。しかし、アップル側の勝訴と言う納得の行かない判断を示した2020年7月の第一審から実に4年以上経過したこの9月に、ようやく最終的な上訴審の判決が出ました。そして、この最終審では、私の修士論文で批判的に分析した第一審判決はやはり期待通り否認され、巨大IT企業の作為的で大規模な税逃れの手法は認められないと言う結論が下されました。
早速、この最終判決の全文を入手し、その分析を始めたところですが、何しろ400パラグラフ以上、60ページを超える長文であり、また極めて専門性の高い法律論が展開されているので、その詳細な分析・理解はかなりの難題と思われます。現在の博士課程の研究課題の一つとして、じっくり取り組みたいと考えています。