夜の行軍ですっかり疲れ切った一夜はぐっすり休み、翌朝はスッキリ目覚めました。昨日は、主としてオペラ座とシュテファン大聖堂の周辺の観光スポットを巡りましたので、この日は、映画の舞台ともなった事で有名な『カフェ・モーツァルト』での朝食の後、王宮(ホーフブルグ)を中心に歩く事にしました。
しかし、何しろハプスブルク家600年の治世の拠城だけあって、見所は数多くあります。
まず、王宮敷地内にあるアウグスティナー教会に入り、聖歌隊の練習を聞いたりしました。
その後、旧王宮の敷地内を歩き回りました。
その後、悲運の皇妃エリザベートとその夫、フランツ・ヨーゼフ一世ゆかりの居城に偶々行き当たり、ここを回りました。美貌の皇妃エリザベートは、シシィの愛称で人気が高いようです。
この日、どうしても行っておきたかったのは、「世界一美しい図書館」と言われる『国立図書館(ブルンクザール)』でした。入り口が複数あるためか、Googleの案内も分かりづらく、右往左往していると、北欧からの留学生のカップルから声を掛けられ、一緒に探す事になり、ようやく行き着きました。入り口から中に入るや、そこには、なるほど『世界一』と称されるのも当然かと思われる空間が広がっていました。
その後は、これまた世界一華麗と言われるカフェがある『美術史美術館』に向かいました。もちろん、美術館としても数々の有名な画家の作品が並んでいるのですが、日本語もある音声ガイドの番号と渡された案内図の番号が数字自体が一致せず、その照合に四苦八苦するうちに、根気が無くなり、途中でギブアップしてしまいました。
短い旅行期間での経験だけから余り断定的な事は言えませんが、到着時の空港でのスーツケースの管理問題やこの美術館への入り口への案内の分かりにくさ、さらには、この美術館の音声ガイドの案内の不具合等々、同じドイツ民族らしい緻密さがどうもオーストリアでは、幾分レベルが落ちているのではないかと、との懸念を感じざるを得ませんでした。
結局、絵画鑑賞は途中で切り上げ、館内の2階にある、これまた「世界一華麗」と言われるカフェで食事をする事にしました。
なるほど、そのカフェは、確かに世界でも類を見ないほどの華麗な空間でした。
注文したのは、鶏肉をトッピングしたサラダとオーストリアの伝統料理の一つと言われる『ウィーン風グーラッシュ、パン団子添え(Wiener Gulasch mit Semmelknödel)』。
この料理もまたかなりのボリュームで、グーラッシュと言うウィーン風のビーフシチューの味付けは大変美味しかったですが、パン団子はほとんど手つかずで終わりました。
さて、問題はまたこの後に起きました。王宮(ホーフブルグ)は、何しろハプスブルク家の長い統治期間を通して様々な建築物が入り混じり、大きな敷地の中の通り道も複雑な形状になっています。一通りの見学を終えて、一旦、繁華街の起点の一つであるシュテファン大聖堂に行こうとして、この複雑な通路が入り混んでいる敷地を斜めに突っ切って向かおうとして歩き始めました。ところが、自分の頭の中のイメージとは違って、周りの様子が目的地とはどんどんズレて行きます。一時見えていたシュテファン大聖堂の高い屋根もいつの間にか見えなくなり、手にして眺めている地図の中のどこに自分がいるのか分からなくなって来ました。しかも、自分が目指す目的地にあるはずの賑やかな雰囲気とはかけ離れた落ち着いた街並みになって来ました。
完全に迷子になってしまった不安と焦りで、冷や汗をかきつつ、通りかかったカフェの女の子に地図を見せながら「ここはどこ?」と尋ねました。はるか昔の高校生時代、戦後の英語ブームの中で大ベストセラーになった岩田一男氏の『英語に強くなる本』の中での、道に迷って「ここはどこ?」と言う時は、「Where is here ?」は間違いで、「Where am I ?」と言わなければいけない、と言う下りを思い出して、そう尋ねました。その言い回しが、おかしかったのか、あるいは、私の焦った様子がおかしかったのか、クスリと笑いながら、私が握りしめている地図を広げ直し、「ここはウィーン大学の前よ」と告げました。目の前の堂々たる建物は日本の大学の雰囲気とは全く別物で、ウィーンともなると大学も違うなぁと感心していましたが、さらに私の地図をたどりながら丁寧に道案内してくれました。
その後、歩き始めた私を、その女の子が後から追いかけて来て、「この書類落とされましたよ」と渡してくれました。焦って落としたようです。さらに「ショルダーバッグのファスナーが開いてますよ」と教えてくれました。焦っていたとは言え、外国の街中では極めて危険な事でした。この時、初めてウィーンの人の優しさに触れたようで、嬉しい気持ちになりました。
その後、無事、シュテファン大聖堂に着き、ケルンストナー通りでお土産探しをしたりしながら、帰途につきました。