新年初仕事(大学研究誌に第2回原稿)

昨年末の投稿でも書いた通り、昨年末の数ヶ月は、公式の院長交代とマンション内での転居と言う2つの課題に追われ、慌ただしく過ごす事になったのですが、一方で、大学院の課題も決して離れていた訳ではありません。昨春の大学研究誌への以下の原稿投稿に続く第二稿の作成にかかっており、年末には、その原稿の入稿を済ませました。

研究誌論文と社会の二極分化

以下は、その研究誌投稿の内容です。内容は、第一稿にもまして専門的なものとなりますが、この国際課税上の問題に多少なりとも関心をお待ちの方にはそれなりの興味を持って頂ける内容ではないかと思います。(ただ、400字詰原稿用紙にして約80枚、3万字を越す分量になってしまいましたので)時間に余裕のあるお手すきの余暇があれば、お目通し頂ければ幸いです。

星陵台論集

第54巻 第2号

2021年      12月

EUアップル裁判判決の内容とその影響(2)

ー 2013年米国上院公聴会およびOECD/G20のBEPS対策 ー

             松 賀 正 考

(1) はじめに

前回、2020年7月にEU一般裁判所から出されたいわゆる「EUアップル裁判」の背景、判決の概要、主要論点、判決文全体の姿勢に対する批判的私見などをまとめた。

この裁判に関する問題を要約すると、以下のようになるものと思われる。問題の発端は、アイルランドで設立されたアップルの子会社(ASI社およびAOE社)がアップルグループの中でも際立つ大きな利益を上げているにもかかわらず、アイルランドに殆ど納税をしていない事実がある。これに対し、加盟国間の経済活動環境の平等性、競争条件の公平性を重視するEU委員会が、これはアイルランドによる特定企業への国家補助( State Aid )にあたるとしアップルの子会社に1兆5,000億円相当の巨額の追徴を命ずる裁定を下した事であった。前回にも述べた通り、EUが設立されたそもそもの主要目的の一つが公平で開かれた単一の自由競争市場を作り出すことでもあり、過去にも、EU委員会が加盟国の『国家補助』を否認して法人税の追徴を命じた例はいくつかあったが、これほどの巨額の例は無く、従来の事例とは桁違いのレベルであった。 この裁定を不服として、アップルの子会社、および外資導入による経済成長を目論むアイルランド、とがEUの第一審を担当するEU一般裁判所に提訴したのが今回の裁判である。
アップル、アイルランド側の主張は、アップル子会社が上げている巨額の利益は、あくまでこれら子会社の本社に帰属するものであり、これら子会社はアイルランドで設立はされているが、アイルランドにはその本社の建物も雇用スタッフも存在せず、アイルランドには、その子会社の支店が存在するだけである。これらの子会社支店はその子会社本社の企業活動のごく末端的な機能を果たしているだけであって、アイルランドに対しての納税額は、それに相当するものである、と言うものであった。

そして注目された本裁判の判決はアップル・アイルランド側の主張が通る形の勝訴となったのであるが、そのキーポイントはアップル子会社の本社支店の関係であった。ここに、現在の国際課税体制の不整備な間隙があるのだが、問題のアップル子会社(の本社)は、アイルランドで設立された形であるが、実際の企業としての営業活動はしておらず、したがって本社の社屋も雇用スタッフも存在しない。米国の税制度では課税対象企業の認定は設立地主義であって、アイルランドで設立されたという形のこれらアップル子会社は米国への納税義務が無い。一方アイルランドの国内税制(TCA97アイルランド統合税法)は企業活動の実態を基準としており、アイルランドに本社の社屋もスタッフも存在しないアップル子会社(の本社)は課税対象企業ではなく物理的実体のあるそのアイルランド支店の営業活動の成果のみがアイルランドへの課税対象となると言うのがアップル側の主張であった。このような言わば国際課税制度の間隙を突いて、このアップル子会社はその巨額な計上利益に対して、米国にも、アイルランドにも、まともな納税をしていないのである。

このような明白な実態があるにも関わらず、今回のEU一般裁判所は、アイルランドに物理的存在が無いこれらアップル子会社本社の巨大な利益に直接アイルランドが課税するためには現に物理的存在があるこれらの企業のアイルランド支店がその本社の利益の源泉とも言うべきアップル社本体から譲られたIP(無形資産)の所有とその運用がこれら子会社のアイルランド支店によって行われている事をEU委員会が証明する必要があるとした。そして、その証明が出来ないのでEU委員会の主張は認められないとしたのである。     

しかしながら、今回のこの裁判の経緯、判決の論理的展開を追う時、アップル側の主張は、どう考えても現在の国際税制の未整理な制度的不備とその間隙を突いた手法であり、法律論的視点からはその主張を覆せないとしても、国際的な活躍をし、時価総額での世界一を争う世界的企業の行動としての社会倫理的問題は残るのではないかと思われる。

このようなアップル社による一種作為的な租税回避行動については国際的課税問題が国際的に注視され始めた2010年代初頭に、既に米国上院で追及されていた経緯がある。そこで、国際租税問題についての国際的取組みが本格的に進められて来た2010年代初めから現在に至るまでの経緯を検討する前に、この米国上院公聴会の記録を検討してみたい。これは、2013年の議会報告書『オフショア利益移転とU.S.税法 パート2(アップル社)OFFSHORE PROFIT SHIFTING AND THE U.S TAX CODE̶PART 2 (APPLE INC.)』と言う形で文書化されており、そこでのやり取りは、まるでハリウッド映画のワンシーンを見るかようにドラマチックで興味深い。公式の邦訳は存在しないようなので、その一部を試訳し文末に添付している。 読者の方々は、この拙い論考を読み進まれる前に是非その議事録をご一読頂き、米国議会という公式の場でどのような論議と追及が行われたのかを現実的に感じて頂ければと思う。

 (2)米上院公聴会での調査報告(2013年)

さて、上記の議会報告書『オフショア利益移転とU.S.税法 パート2(アップル社)』のうち、レビン上院議員の冒頭発言を翻訳し、その発言内容を詳細に検討して非常に強い衝撃的印象を受けた。2013年時点で、米国上院での公聴会というきわめて公的性格も強く、国際的にも広く知れ渡る内容が明らかにされていながら、昨年夏のEUアップル裁判においてEU一般裁判所の判事が何故あのような表面的、形式的な判決を出したのか、信じられない気持ちになった。

例えば、その一節でレビン議員は「米国は一般にその納税義務を会社が設立された国によって判断しているが、もしそのペーパーカンパニーが親会社の『道具』に過ぎず、その見せかけのインチキ会社が独立した法的存在としてではなく、その親会社自身と同一のものとして扱われるべきである位その親会社によって支配されているのならば、その租税目的のための企業構造の定義に踏み込んで、その収益に対して合衆国の税金を徴収する事は可能であろう。」
「私は『コスト=シェアリング』という用語を疑惑の目を持って使っている。何故ならそれは契約とは称しているが、明らかに独立した企業間の取引ではないからである。やり取りされるという資金はすべてアップル社のものでありその契約者は全てアップルの社員なのである。その契約は表面的にはアップルの企業グループ間でそのコストを分配するものであるが、これらのコストのすべては結局同じポケットから出ているのだから、現実的にはその契約は利益の移転に関するものなのである。」というような踏み込んだ問題追及をしているのに、何故EU裁判での判決があのような皮相的なレベルに止まっているのか理解に苦しむ、というのが正直な感想である。

レビン議員のアップル社の租税回避行動に対する問題追及はまさにその核心を突いたものである。議員の言う通り「アップル社はアメリカのサクセスストーリーである。・・・この会社の技術者やデザイナーは創造性に関して高い評価を得ている。ところがそれほど知られていないのはアップル社がまた高度に洗練された租税回避システムを持ち、そのシステムによって、タックス・ヘイブンに1000億ドル以上のオフショア資産を貯め込んでいるという事である。」と言う事実は重大である。これはまさに企業行動の倫理を問われる問題であり、このような企業の社会的責任を公然と放棄し恥ずるところが無い企業に対し、強い不信感を覚えざるを得ない。そしてこれまた議員の言う通り、その手法はごく原始的、初歩的なものであり、その実態を知れば、誰の目にもその見え透いた手法の不合理性、明らかな言い逃れの矛盾は一目瞭然である。このような公然たる反社会的行動は許されるものではないと思われる。

まず、議員の指摘の第一点である「企業の課税的居住性」の問題は、まさに国際課税問題の一丁目一番地とも言うべき<国際的二重非課税>の原初的形態と言うべき問題であろう。議員の言う「課税的にはどの国の何処にも存在しないと称する会社」「不思議なことに、この会社はそこにもここにも居ないのである」などと言う馬鹿げた論理が公然とまかり通っている実態、しかもそれが関係する米国においてもアイルランドにおいてもEUにおいても放置されたままである、と言う事実は、関係諸国の、あるいはこれらの諸国の共同責任としても、責任放棄であると言わねばならないのではないか。「そこにもここにも居ない」等と言う見え透いた言抜けが何故放置され見過ごされているのが信じられない思いである。「そこに」居なければ「ここに」居るのであり、「ここに」居なければ「そこに」居るのは当然であろう。つまり、どちらにも「居ない」、と言う論理は通用するものではなく、その課税権の帰属は、何らかの方法で決定されなければならない。関係諸国が睨み合ってか遠慮しあってか、手を拱いている間隙を突いて大きな詐欺まがいの行動がぬけぬけと公然と行われている実態は直ちに解決されるべきであると思われる。

次の問題点である<コスト=シェアリング契約による利益移転>に関する議員の指摘もまさにアップルの見え透いた姑息な策略の本質を突いたものである。「すべては結局同じポケットから出ている」と言うのが事の本質である。『コスト=シェアリング契約』など、議員の指摘通り「契約とは称しているが、それは明らかに独立した企業間の取引ではない」、「やり取りされるという資金はすべてアップル社のものであり、その契約者はすべてアップルの社員」なのだから、そんな契約は恣意的な猿芝居によるまやかしに過ぎない。

以上のレビン議員の問題の指摘に納得すればするほど、こんな初歩的で幼稚な策略的租税回避の本質に全く切り込む事なく、まるでアップル社の用意した台本を読むがごとき姿勢に終始した皮相的なEU一般裁判所の判決の無様さに改めて唖然とせざるを得ない。もちろん、裁判の基本として、対立する原告と被告の主張をベースとして審理される以上、問題はアップル社の租税回避行動を告発したEU委員会の主張の立論に問題があったのかもしれない。しかしEU委員会といいEU一般裁判所といい、従来の主権国家の枠組みを越える新しい国際的実験に取り組んでいる組織として、余りに視野の広さ、認識の深さを欠いているのではないか、との思いもする。

レビン議員に続くマッケイン議員の発言もレビン議員とほとんど同じ立場で、やはりアップル社の国際的租税回避戦略に対して厳しい批判の目を向けている。この2議員の見解はおそらくアメリカの政界を中心とした公的立場の人々で共有されている常識的な見方ではないかと推測される。しかしながら、もちろんそのような見解が全ての議会関係者で一致したものではないようで、次に発言したポール議員は逆に不自然なほどアップル社を擁護するものである。ただその意見の内容は論理的な整合性を欠き、論理が飛躍し、場当たり的で、時として支離滅裂であり、明らかに情緒的・感情的なレベルに終始しており論理的な説得力には全く欠けるものと思われる。その発言後のレビン議員のコメントでは、激しいロビー活動があったのだろうと皮肉っている。このポール議員の発言は、逆にレビン氏やマッケイン氏の意見の真っ当さを際立たせている感じすらする。

次に議員とはやや立場を異にする税務分野の専門家としての大学教授陣からの証言も行われているが、その最初の証言に立ったハーベイ教授の発言も非常に示唆に富むもので、その発言の中の以下の部分は、私がこの問題に興味を持ち始めて以来漠然と感じていた異和感と根本的な疑問に対する一つのヒントを与えてくれるものであったと思う。

『私の見解では本日の問題はアップルの現在の手法が合法的かどうかではないのです。そしてまた彼らが地球上最も貪欲な多国籍企業かどうかも問題でもありません。そうではなくて、むしろ真の問題はアップルやその他のアップルのような企業が、社員も居らず実際の活動もしていない企業にその利益の64%を付け替えることがまともなのかと言うことです。それこそが我々が焦点を当てる必要があると私が考える真の問題です。』

つまりアップルが行なっている見え透いた大規模な国際的スキームの租税回避戦略は、現状の国際課税体制の下では違法行為としてこれを否定する事は税法の専門家の立場から理論的に見ても難しいだろうとする。しかし、その現行の未成熟な国際課税体制の隙を突いたような行為は社会の良識から見て許し難いのではないか、と言う見解である。私なりのこれまでの資料の検討の中で、強く感じた事はまさにこのようなものではないかと思う。人間社会の行動規範は法律が全てではない。新しい社会の激しい変化の中で、法の整備が追いつかず、未成熟な状態である場合、この法に抵触しないからと言って、何をしてもいい、と言うものではない。企業の行動にも倫理は求められる。ましてやアップルは時価総額世界一ともされる世界を代表する有名企業である。それだけの大きな存在としていわゆる企業の社会的責任も厳しく問われるべきであろうと考えている。 そしてまた、そのような視点から考える時、今回の研究テーマの出発点であったEU裁判の判決内容に対して、改めて強い不満を覚えざるをえない。この問題の究極の社会的意義は、米国上院議会公聴会でのレビン議員の以下のような発言に尽きるのではないだろうか。

「我々が本日ここに集まっている事の意味を噛み締めておきたい。小委員会で明らかにされたオフショア租税回避戦略は深刻な害を及ぼしている。それはオフショア租税トリックを使ってその租税納付書を減額できない立場にある米国の国内企業を不利にするものであある。それらはアップル社の租税負担を他の納税者、とりわけ労働者家族や小企業に転嫁するものである。この失われた税収は異常な割合に達している財政赤字を賄えるものである。それは年々の予算の削減や現在の我々の経済回復を脅かしている無分別な執行停止に導くものなのである。これらの削減により全国の子供達がその最初からの早期教育を受けられなくなっている。困窮した高齢者は食べるに事欠く状態になっている。」

時価総額のランキングに入っているような巨大な多国籍企業が社会的貢献活動を宣伝したり、その創業者が大きな慈善団体を設立して慈善活動に資金を提供したりしているが、そんな事をする前に、まず企業としての社会的責任を果たし現在の国際経済社会から獲得した巨大な利益に相当するだけの真っ当な納税義務を果たすべきではないか。本来各国の財政予算に入り、国民全体のために使われるべき巨額の資金をタックス・ヘイブン等に隠匿しておきながら、もっともらしく慈善活動や社会福祉への貢献活動を喧伝するのはまやかしに過ぎないと思われる。

(3)OECDを中心とした国際的取り組み

いずれにしても、このEUアップル裁判には現在の国際課税に関わる大きな矛盾や問題点が、ある意味、象徴的に現れているとも思われる。その矛盾とは今世紀に入る頃から急速に進んだ「経済のグローバル化」と「経済のデジタル化」に対して、約100年前に生まれた国民主権国家内における課税権を絶対視する旧来の国際課税体制が全く対応できない状況から生ずる矛盾である。 このような近年における国際経済の変化に対して、国際社会は全く手をこまねいていた訳ではない。実際、この米国上院での公聴会が開かれた2013年に前後して符節を合わせたようにOECD租税委員会は2012年6月にBEPS(Base Erosion and Profit Shifting 利源侵食と利益移転プロジェクト)を立ち上げ、2013年2月に「利源侵食と利益移転への対応(Addressing BEPS)」が、さらに続いて、7月にG20からの要請を受けて、「利源侵食と利益移転行動計画(Action Plan on BEPS)」が発表されている。その後G20メンバー国などの参加を経て2015年10月に「BEPS最終報告書(BEPS 2015 Final Report)」が公表された。これを受けてOECD加盟国は多国籍企業の国際的租税回避の防止のための国内法の改正とともに各国との租税条約の取り決めの見直しを進めていくことになった。「BEPS最終報告書」は行動1から行動15で構成されており、複雑多岐に渡るものである。 これは、ちょうどこの時期から従来国際的二重課税を防止するために構築されてきた様々な課税原則が多国籍企業によって過度な課税軽減に用いられる等、国際経済取引に適切に反映されなくなっていることが問題として浮上し、この頃から国際課税のあり方が世界的に問題になって来たことの現れである。

ここで、BEPSと言う専門外の世界では耳慣れない言葉が国際経済の世界で飛び交うようになったのであるが、これはまさに本裁判で論争の的となったアップルのような多国籍国際企業が取り始めた Aggressive Tax Planning と言われる貪欲で攻撃的な租税回避行動を指すものである。すなわち、本裁判で対象となったアップルの企業行動は、本来アップル本社に帰属されるはずの利益がその本社の物理的存在すらまるで陽炎のように定かでないアイルランド子会社に巧妙に利益移転(Profit Shift)され、しかも、その利益が米国でも、米国外のアイルランドでも課税対象から逃れる作為的手法によって霞の彼方に消え去ることで税源が失われる(Base Erosion)問題を指す。そしてこの問題が最早看過出来ない域に達している、と言う問題提起から始まる国際的枠組みでの取組みが進められた。

ここで、このような『税源浸食と利益移転』がどの程度の規模になるのかと言う具体的なデータを得る事は非常に難しいと思われるが、ある調査によれば2013年度における『税収逸失国』ランクにおいて、我が国はアメリカ、中国に続く堂々の第3位であり、我が国から失われたと推測される金額は、468億ドルに上るという。これは日本円換算ではおよそ5兆円余りであり、2020年度の法人税収12.1兆円の半分に近い。このような形でタックス・ヘイブンなどの暗闇の中に消えていく『税源浸食』が無ければ、広く国民の負担となる消費税の増税など不要になる規模なのである。

このような意味で、遠い世界の出来事に思われる国際課税の問題は、実は一般市民の足元の問題と深く関わっているのであり、簡単には見過ごせない問題なのである。さて、上に述べたようにOECDを中心としたBEPSへの対策は早くも2012年6月にスタートした後、G20メンバー国などの参加を経て2015年10月に「BEPS最終報告書(BEPS 2015 Final Report)」が公表され、15項目にわたる行動計画を作成し、これを元にこの取組みに参加する各国での対応が進められた。さらに引き続いて、ポストBEPSと称される『包括的協議』が粘り強く続けられた。その内容は専門分野的で詳細な技術的問題を含むものであるが、その粘り強い継続的協議が、つい最近大きな画期的な成果を産む形で結実した。

本稿をまとめている最中の10月8日の深夜に飛び込んできた日経電子版のニュースによると「経済協力開発機構(OECD)加盟国を含む136カ国・地域は8日、企業が負担する法人税の最低税率を15%とすることで合意した。店舗などの物理的な拠点がなくてもサービス利用者がいればIT(情報技術)企業などから税収を得られるデジタル課税も導入する。経済のグローバル化に合わせ、国際的ルールを作りかえる。2023年の導入を目指す。」という。(おそらく最後まで抵抗したと思われるが)「税率が12.5%でグローバル企業の拠点が多いアイルランドも合意に加わった。」との事である。そして、これは「30年以上続いた法人税の引き下げ競争に歯止めをかける大きな節目となる。税率の低い国・地域に子会社を置いて税負担を逃れるのを防ぐ狙いだ。」と評価している。
また、近年の大きな懸案となっていたGAFA等の巨大な国際的IT企業に対するデジタル課税についての国際合意も成立し、「店舗などの拠点を前提にした課税原則も約100年ぶりに転換する。新たなデジタル課税は売上高200億ユーロ、税引き前利益率が10%超の企業100社程度が対象。売上高の10%を超える利潤の25%に課税する権利を消費者のいる国・地域に配分する。」という。すなわち、1世紀以上にわたって国際課税ルールの基本的原則の1つであり続けた<PE(Permanent Establishment 恒久的施設)無ければ、課税無し>という原則がついに崩れ、曲がりなりにも、近年の国際経済の『グローバル化』と『デジタル化』への対応への画期的な一歩が踏み出された形となった。
このような国際経済界における大きな潮流の変化を感ずるにつけ、従来の既成概念から一歩も踏み出す事なく、旧態依然の発想から何ら抜け出さない論理に終始した今回のEUアップル裁判の判決には失望するしかない。

前稿でも述べたが、今回のケースで本来問題にすべきは、アイルランドで設立されたと言いながら本社としての物理的実体も全く存在せず雇用されている従業員も居ないまさにペーパーカンパニーそのもののASIとAOEにアップルグループの無形資産(IPライセンス)の大きな部分が帰属されるという事、さらに、そこから生まれる巨大な利益に対しては、設立地がアイルランドであるからと言う理由で米国の課税を逃れ、アイルランドで設立はされたが実態としての企業活動はアイルランドでしていない外国法人だからという理由で、アイルランドでの課税も逃れるという手法の不自然さが際立って感じられる。このようなスキームは明らかに意図的、作為的なものであり、巧妙で大規模な租税回避とも見える。したがって、このケースで本来問題にするべきは法人の課税的居住性(tax residency)の問題、そして、実体が全く無いペーパーカンパニーに、これまた実体の無い(intangible)無形資産(IP licenses )を恣意的に割り当てるという手法が社会的に許されるのか、という視点から問題を整理、追求するべきであろう。

米国上院の公聴会では既にその問題が指摘されていた。さらに、昨今のような国際経済分野での新しい状況の変化が相次いでいる。にもかかわらず、このEUアップル裁判でそのような方向性の議論が全く行われなかったことに大きな疑義と失望を感じざるを得ない。法人の課税的居住性や無国籍性(stateless)という事に関しては、EUアップル裁判においても、III.審理のA.のパートに、これに触れた記述がわずかにある(判決文 120~122)。しかしながら、この問題に関しては、論争は発展せず、議論は全く行われていない。むしろ、問題として議論すべきはこのテーマであって、ここで委員会は重大な隠れた論点を見逃してしまったのではないか、との思いもする。

 また、IP licensesについても、全文中に44回現れており、IPのみでは296回も出現しており、この無形資産としてのIP licenses の問題が重要なポイントの一つであることは示唆されてはいるが、この点についても何らの検討も加えられていない。

矢内氏の論文[1]によれば「AOIは、2009年から2013年の間に、300億ドルの所得がありながら、非居住法人として申告もせず、5年間いずれの国にも納税していない」と言う。また諸富徹氏の著書[2]によれば「(欧州員会が明らかにしたところによれば)アップル社のアイルランド子会社の法人税実効負担率は、なんと0.005%(2014年)だった。」 とも書かれている。 このような理不尽で無法な状況が放置されて来た事には驚く他はない。ただ、この問題は逆に個々の国家レベルや国家の集合体としてのEUを飛び越え世界市民的立場から考えるべき対象であって、あくまでEU内の法制の中で考え行動するしかないEU委員会の思考の埒外だったのかもしれない。

前述のように、OECDやG20を中心にした10年に及ぶ粘り強い取り組みは進んで来たのであるが、しかし、これらの多国籍企業グループの課税問題についての基本的理論やそれに対応する政策論が余りにも追いついておらず、現代の国際経済の大きな変化である『グローバル化』、『デジタル化』に対して、その問題の本質に踏み込んだ、問題全体に対する総合的な取り組み、解決とは言えないと感じられる。

しかし一方で、1世紀前から続く従来の国民主権国家の概念を超えた『グローバル・タックス』の構想を基にした新しいアプローチの模索も進んでいるようである。次回、このような新しいアプローチからの動きについて調査検討して行きたいと考えている。

この論文投稿の報告会でいくつかの質問を頂いたので、参考までにその質疑を記しておきたい、

(1)何故、このEUアップル裁判を研究対象にしたのか?

いくつかのきっかけがあったが、一つには濱田ゼミでの輪読で国際課税分野の担当をした際、森信茂樹先生の『デジタル経済と国際課税』と言う著書を読み、現代経済のデジタル化が様々な形で広範な影響を及ぼしている状況に気がつき、その問題の重要性を感じた。また経済学の院に入る前に卒業した会計研究科大学院での卒業レポートのテーマが『三菱UFJフィナンシャルグループの企業統合会計』であり、この企業統合後、日米の会計基準の差によって1兆円もの巨大な差額が生じた問題であった事から国際経済の中の様々な意外な現象がある事に興味を覚えた事も一つであった。さらに、たまたま自分が極めて以前からの熱心なアップル製品ユーザーであった事から、その会社を巡る疑惑を明らかにしたかった、等の理由が重なった事がある。しかしながら、これは個人的な問題になるので、以上に留めたい。


(2)
先日の画期的とされる国際的合意によって、アイルランドを含む各国の法人税の最低税率は統一され、この問題は解決したのか?

これまで、各国が法人税率を低くすることによって海外の優良企業を誘致する、いわゆる『有害な租税競争(harmful tax competition) 』、さらには国内の富裕層の国外への逃避を防ぐという口実での所得税の累進税率のフラット化が競われる状況が続いていた。この事が、結局、他の国への移動を行えない国内企業や低所得者層への税負担の付け回しになる事が問題とされた。その意味で、前述のように国際課税問題は、一般市民の足元の問題とも決して無縁の問題ではない事が分かる

今回の画期的とされる国際的合意によって、このような流れに一つの歯止めが掛かったのは事実である。今回の合意のもう一点の、巨大IT企業に対する(恒久的施設  Permanent Establishment を基準としない)デジタル課税も含め、この国際的合意がきわめて画期的なものであるのは確かである。

G20を中心とする主要各国政府も歓迎声明を出し、我が国も以下のような財務大臣談話でこの国際合意を歓迎している。

1.本日開催された140カ国・地域が参加する「BEPS包摂的枠組み」会合において、国際課税の新たなルールについて歴史的な合意が実現したことを強く歓迎する。
2.日本政府は、2013年のBEPSプロジェクトの立上げ時から、国際課税改革に関する議論を一貫して主導してきたところであり、100年来続いてきた国際課税原則の見直しが今般、グローバルな枠組みの下で合意されたことを高く評価する。
3.今後、多国間条約の策定・批准や、国内法の改正に向け、引き続き、各国と協調しつつ取り組んでまいりたい。

 しかしながら、今回の合意は、あくまで部分的、対症療法的対策である事は否めない。現在の国際税務に関する基本的問題は、経済のグローバル化、デジタル化等の巨大な質的変化に対して、約一世紀前からの国民主権国家的概念を基本とする枠組みが対応出来なくなっている事が問題である。したがって、そのような部分的、局所的な弥縫策にとどまらず、より広いグローバル・タックス的な新しい大きな枠組みの発想に基づく本質的問題解決が必要である、と思われる。

以下は2013年5月、アップル社の租税回避問題について、米国上院議会で行われた公聴会の報告書の一部を試訳したものである。参考までに添付掲載しておく。

  米国上院議会報告書(2013年 5/21)

『オフショア利益移転とU.S.税法 パート2(アップル社)

(OFFSHORE PROFIT SHIFTING AND THE U.S TAX CODEーPART 2 (APPLE INC.)』 《一部 試訳》

LEVIN上院議員による冒頭発言

( レビン上院議員 )

<オクラホマでの災害への配慮発言(省略)>

本日、本小委員会は、米国拠点の多国籍企業がどのようにして、その利益をオフショアのタックス・ヘイブンに移転させ、米国の租税を回避するために税法上の抜け道を利用しているかという事を検証するための2回目の公聴会のために参集頂いている。9月に我々は二つの事例研究を行なった、一つはマイクロソフト社が米国の顧客に対する米国においての利益をどのようにしてタックス・ヘイブンへ移転しているかについての研究であり、もう一つはヒューレットパッカード社がどのようにして、効率的にオフショアの利益を送還後に発生する租税を払わずに送還するための「驚くべき海外ローンプログラム」を作り上げているかについての研究であった。
 本日、本小委員会はアップル社が税法の規定に従えば米国に納付すべきと考えられる租税を複雑なプロセスを通じて回避し数十億ドルの利益をどのようにして効率的にオフショアに移転しているかについて焦点を当てたい。
 これらの公聴会に関する我々の目的は、米国の課税から防御されてオフショアのタックス・ヘイブンにその利益を推定1.9兆ドルも蓄積されることが許されてきた米国を拠点とする多国籍企業の行動に光を当てることである。ある調査によれば、S&P500の企業が、このようなテクニックを使ってオフショアに積み上げて来た利益は、過去10年で400%も増加したと推定される。
 このような一方での急速に加速する法人利益のオフショアへの移転と他方での法人税納付の減少が連邦政府の歳入に及ぼす憂慮すべき歳入不足の一因となっている事との間には直接的な相関がある。法人税収は減少を続け、今や連邦政府歳入の約9%にまで低下している。この減少の一因は最高税率の35%に対し、米国の企業の有効税率として15%しか払っていないという税法の抜け道の使用と濫用によるものである。最近の研究によると、米国の巨大多国籍企業のうちの30社は1600億ドル以上の利益を上げながら、最近の3年間連邦税を全く納めていない。 これらの企業は、複数のオフショアの抜け道を使っており、彼らはこれによって、米国における所得の申告額に対して納付しなければならない税額に関して強力な調整が出来る。
 これらのオフショアの租税操作は連邦予算の財政赤字を肥大化させアメリカ市民の税負担を増大させているのであるが、ほとんどのアメリカ人はその複雑性のためにこの問題を見逃している。この状況を変えるための第一歩は、問題が存在することを知らしめることである。ここで再び企業のオフショア租税回避にスポットをあて、議員の方々、そしてアメリカ国民に、このオフショアの租税の抜け道問題の深刻さとそれが財政的、経済的健全性に及ぼす損害を理解して頂く必要がある。
 アップル社は、アメリカのサクセスストーリーである。その製品は、有用なものとして世界中で、よく知られており使われている。私は世界中の多数の人と同様ポケットにiPhoneを持ち歩いている。この会社の技術者やデザイナーは創造性に関して高い評価を得ている。ところが、それほど知られていないのは、アップル社がまた高度に洗練された租税回避システムを持ち、そのシステムによってタックス・ヘイブンに1,000億ドル以上のオフショア資産を貯め込んでいるという事である。
  価値のある知財権を、その権利によって生み出される利益とともに、オフショアに送り込むというのがアップル社の租税回避戦略の中核である。グローバル経済において知的資産はますます主要な価値の源泉となっている。それはきわめて移動性の高いものである。有形の物理的資産とは異なり、その価値は、しばしばほんの数回のキータッチで地球規模での移転が可能である。アップル社の事業的成功の秘密は私のiPhoneやその他のアップル社の製品のアルミや鉄やガラスにあるのではない。 その利益は、これらの素材をこのような洗練された製品にまとめ上げるアイデアから生まれる。その無形の天才的才能はここ米国において育まれ開発されたものである。オフショア租税回避の中核をなすのは、そのような価値のある知的資産をオフショアに移転し、そうする事によって、その利益を米国ではなく、オフショアのタックス・ヘイブンに振り向けるのである。
 アップル社の租税回避戦略は以下の2つからなる。第一に、その利益を生み出す源泉である知的資産をオフショアのタックス・ヘイブンに移転させる、その事によって結果として生み出される収益もタックス・ヘイブン、すなわち、タックス・ヘイブンの完全所有会社に振り向ける。次にこの収益がオフショアに移転されるや、この収益を課税対象として捕捉するように構成された米国税法の規制にもかかわらず、その収益が米国の租税から逃れられるようにするための数々の策略を行使するのである。
 アップル社の手法のあるものは、例えば、親会社とオフショアの子会社群との間での「コスト分担契約」として知られる手法や、あるいは、いわゆるチェック・ザ・ボックス規制の使用など、国際的租税回避の定番である。この問題についても、議論させて頂く予定である。しかし他のやり方は独特なものである。アップルは、課税的には、どの国の何処にも存在しないと称する会社という租税回避の至高の目標を探求してきた。以下がその仕組みである。
 アップル社は、三つのオフショアの会社を設立した、その企業は100億ドル単位の収入があるが、それが設立されたアイルランドにおいても、それを経営するアップルの重役たちが住んでいる米国においても何処にも課税されないのである。アップルは、これらの幽霊会社が税務的には何処にも存在しないと言い張れるように仕組んでいる。ある会社は5年間どの国にも法人税を支払わなかった。別のある会社はその全収入の1パーセントのほんの僅かしかアイルランドに納めていない。
 これらの企業の筆頭がアップル・オペレーション・インターナショナル(AOI)であり、そしてこちらに示す図表はアップルのオフショア企業ネットワークを示している。AOIはその組織のトップに位置する。アップルはその完全な所有者である。AOIはアップルのその他のオフショア企業の大半を直接、間接的に所有している。
  アイルランドの税制下ではアイルランドにおいて運営され、支配されている企業のみが課税的な居住者とみなされる。アップルは、AOIはアイルランドで設立されたがアイルランドでは運営も支配もされておらず、したがってアイルランドにおける納税義務者ではない、と主張する。他方、米国の税法では会社がどこで運営され支配されているかではなく、どこでその会社が設立されたかに着目する。アップルは、AOIが米国で設立されていない以上、米国においては納税義務者でもないと言う。不思議なことに、この会社はそこにもここにも居ないのである。
 二つ目の幽霊会社は、アップル=セールス=インターナショナル(ASI)である。ASIは、この後すぐに検討していくが、ヨーロッパ、中東、アフリカ、インド及びアジアにおけるアップルの価値ある知的資産の経済的権利を保有している。2009年から2012年までの間に、その売上げ収入は740億ドルに上った。アップル社は、ASIにおいてもAOIと同様の秘術を行なって来た。この会社は、アイルランドで設立されたのであるが米国から運営されており、アップルは、どの国においても納税者ではない、と言うのである。AOIとは違ってASIはアイルランドにほんのちょっぴり納税している。例えば、2011年において、220億ドルの収益に対して1億ドルを納税している。つまり、その税率は0.05%である。この僅かばかりの納税は、世界中の大半のアップルの知的資産から生み出される利益の貯蔵庫というASIの主たる目的とは何の関係もない活動に関わるものであると思われる。
 アップルは、小委員会においてアップルの企業系列においてASIとAOIの間に位置しているアップル・オペレーション・ヨーロッパ(AOE)という第三の子会社もまた、アイルランドと米国の課税居住基準について、同じ様な口実を使って、納税国がどこにも存在していないと述べている。
 今やアップルは他の企業が使わないような不条理をやっている。この不条理は続けさせるべきではない。米国は一般にその納税義務を会社が設立された国によって判断しているが、もしそのペーパーカンパニーがその親会社の「道具」に過ぎず、その見せかけのインチキ会社が独立した法的存在としてではなくその親会社自身と同一のものとして扱われるべきである位その親会社によって支配されているのならば、その租税目的のための企業構造の定義に踏み込んで、その収益に対して合衆国の税金を徴収する事は可能であろう。AOI、AOEとASIは全てこの状況に当てはまっていると思われる。
 AOIを見よう。AOIはアップル社の100%子会社である。AOIはどこにも住所が無く物理的に存在していない。過去30年にわたってAOIが雇用した従業員は一人もいない。AOIの主要な会計帳簿である総勘定元帳は、テキサス州オースティンのアップル社の米国共同サービスセンターで管理されている。AOIの財務管理はアップル社の子会社であるネバダ州にあるBraeburn Capital社が、管理している。その資産は、ニューヨークの銀行口座に預けられている。
 AOIの取締役会議事録によると、その取締役は、カルフォルニア在住の2人のアップル社の社員とAOI自身が所有しているアイルランド企業であるアップル・ディストリビューション・インターナショナル(ADI)の1人の社員である。2006年5月から2012年末までの過去6年の間、AOIは33回の取締役会を開いているが、そのうち32回はカルフォルニアのクパチーノで開催されている。AOIのただ一人のアイルランド在住役員はその役員会のうち7回しか出席しておらず、そのうち6回は電話参加であり、2006年9月から2012年8月までの間の18回の取締役会には一度も参加していない。
 ASIの状況も同様である。ASIもAOIと同じように、2012年にいたるまで社員はおらず、その運営は、米国居住の役員、その大半はカルフォルニアのアップル社の社員であるが、の活動によって行われてきた。
 要するに、これらの企業の意思決定者、役員会、資産、資産管理者、そして基本的な会計帳簿は、全て合衆国に存在したのである。これらの活動は完全に米国のアップル社によって管理されていた。アップル社の税務担当役員は、小委員会の担当者に、AOIは事実上米国において運営され、支配されていると言うのが、彼の見解であると述べている。その状況はASIでもAOIでも同様と思われる。
 さて、我々の法制度は企業の形式を尊重する傾向がある。しかし、以上の事実は以下の問題を提示している:すなわちこれらのオフショア企業は完全にアップル社によって支配されているのであるから、独立の企業としての存在はまやかしであり、単なる親会社の操り道具に過ぎないのではないか、もしそうならAOIやASIが米国に納税義務が無いというのもまたまやかしではないのか、という問いである。
 AOIはアップル社のオフショア租税回避戦略の末端に位置する。AOIやその他の子会社は、どの国にも納税義務が無いというアップル社の主張は、そのオフショア収益の租税回避のための戦略における決定的要素である。しかし、そもそも、そのオフショアの収益は最終的にどうなるのだろうか。そして、それはいわゆる『移転価格』を通して収益を米国から低税率体制国へ移転するための、より一般的な第二の処理につながってくるのである。
 アップル社を含む多くの米国企業が、知的資産権をオフショアの子会社に移転し、その知的資産に関連する収益ーそうでなければ、その知的資産が開発された米国に流入する課税対象利益になるはずであったものーをその国、典型的にはタックス・ヘイブンの税体制に向かわせるために移転価格制度を使っている。さて、知的財産権をオフショアに移転するには複数の手法があるが、アップル社の主要な方法はいわゆるコスト=シェアリング契約によるものである。
 一般的にコスト=シェアリング契約においては、米国の親会社とその子会社の一社もしくは複数社との間で、新製品、アップル社の場合には、ここ米国で開発された製品であるが、その開発に使われる資金や資源の一定の取り決め分を分担する。アップル社は、その開発された資産の法的権限と南北アメリカでの全ての商業権を保有するが、世界のその他の地域での商業権はそのオフショアの関連会社が持つ。そして、それが、いわゆるコスト・シェアリング契約の中核的部分である。それは単に諸経費を分担するだけではなく、そのオフショアの関連会社は世界のその他の地域において、その商業権およびそこから生じる利益をも手にするのである。
 アップル社は、そのコスト=シェアリング契約をアイルランドの子会社と結んでいる。ここで、私は、『コスト=シェアリング』という用語を疑惑の目を持って使っている。何故なら、それは契約とは称しているが、それは明らかに独立した企業間の取引ではないからである。やり取りされるという資金はすべてアップル社のものであり、その契約者は全てアップルの社員なのである。その契約は表面的にはアップルの企業グループ間でそのコストを分配するものであるが、これらのコストのすべては結局同じポケットから出ているのだから、現実的には、その契約は利益の移転に関するものなのである。このコスト=シェアリング契約はアップル社がその知的資産を開発された米国から、その資産から生み出された利益を移転し、世界の大半から上がる利益の大きな分け前を、アイルランドのアップル子会社に集中させることを可能にしている。改めて言えばアップル社の利益を生み出す知的資産は米国において創り出されたのであるが、その利益の大半はアイルランドに割り当てられるのである。
 何故アイルランドなのか?もう一つ、大きな成功を収めているが現在までは隠されている戦略があり、アップル社は、密かに2%以下の所得税で済むようにアイルランド政府と交渉している。これは他のヨーロッパ諸国や米国の税率より低いのみならずアイルランドの最大税率の12%よりも低いのである。我々が見るところ、実際的にはアップル社は、その低い数字よりもはるかに低い税率でしか納税していない。2012年だけで見ても、基本的にアメリカ以外の地域でのアップル社の全売上げをアイルランドに移転するコスト=シェアリング契約によってASIはその国において3,600億ドルの収入を得ていながら、ほとんど税金を納めていない。
 さらなる事実によって、そのコスト=シェアリング契約が米国の課税を逃れ、アップル社の利益をオフショアに移転する機能を果たしているかがより一層明らかになるであろう。
 まず第一に、アップル社のコスト=シェアリング契約を通じての知的財産権の移転は、アップル社にとってビジネス的に行う必要がある訳ではない。アップル社は世界中の多数の国々で各地域や国に知的財産権を移転せずに業務を行なっている。聴聞に対して、アップル社の担当者はなぜASIが海外でのビジネスを行うためにアップル社の知的財産の経済的権利を得なければならなかったのかについて説明することは出来なかった。全ての関係者にとってこの契約の利益は同じであったし、それ以上に、アップル社はこの契約を何回か、最近では2009年に改めているのであるが、いつでもその契約は改編できる、と言うことは、これがいかなる意味でも独立した立場の取引でなかった事のさらなる証拠である。
 第二にアップル製品の成功の裏の推進力である研究開発費の95%は米国において行われている。しかし、アップル社から示された数値によれば、2009年から2012年までの4年間、ASIはその研究開発費の分担としてアップル社に対して約50億ドルを支払った。その同じ期間、ASIは740億ドルの利益を得ている。ASIのコストと利益の差額である約700億ドルはもしアップル社の子会社との間のコスト=シェアリング契約や、その他の税法の抜け道の利用が無ければ、米国に入るべき課税所得を示している。比較すれば、同じ4年間アップル社はこのコスト=シェアリング契約に基づき40億ドルを支払い、米州における売上から380億ドルの利益を上げている。言い換えれば、その子会社であるアイルランド子会社のASIは米国においてアップル社が開発した資産からほぼ2倍の利益を得ているのである。
 常識的に言えば、アップル社は無関係の企業との独立した取引においては、このようなボロ儲けできる契約は絶対結ばないであろう。アップル社がこんな大儲けできる取引を外部の業者に提供することなど、どんな条件でも考えられない。アイルランドの子会社が研究開発のコストを支払うという事実は、利益をオフショアに集中するという最終目標とは関係ない。もし仮にそのアイルランド子会社が研究開発コストの100%支払ったとしても、この契約ではまだ巨大な利益をタックス・ヘイブンに集中させる結果となり、したがって、巨大な租税回避が行われているのである。
 このコスト=シェアリング契約は、米国での活動から生まれた利益がオフショアへ向かう旅の始まりである。その他の抜け道もその利益を米国の課税から防御してきたのである。アップル社は米国多国籍企業による利益移転と戦い、オフショアに保有されていても、その収益の一部に課税するために作成された、『サブパートF』として知られている租税条項の一部での課税からそのオフショア所得を防御する租税の抜け道を開発した。
 サブパートFは、頻発するオフショアへの租税回避と侵食と戦うためのケネディ時代の試みであった。それは、ある種のオフショア所得が、例えば配当やロイヤリティや利息といった形でオフショア関連会社の間に移転されたファンドというようなものも含め、たとえ米国に戻されなくても、米国の所得税として課税されるようにした。
 しかし、1990年代、財務省はサブパートFに、うっかり巨大な抜け道を開けてしまった。それは、

「チェック・ザ・ボックス」として知られる規則であり、それは、税法的にどのタイプの範疇に入るかを単に書式の箱にチェックするだけで内国歳入庁(IRS)に対して申請することを企業に許したのである。この「ボックスへのチェック」によって、多国籍企業はオフショアの子会社を税法上は「無視されるもの」と宣言し始め、オフショア企業の複雑な連鎖があたかも一つの大きな会社であるかのように見せることが可能になったのである。この事によって、サブパートFの下でも、それらオフショア企業の間で移転された資金が非課税とされたのである。サブパートFの回避は議会が「無視規則」として知られるものを承認した2006年にはさらに容易になったのであるが、これは、同様に、サブパートFの下でもオフショアの所得を課税から防御するものであった。
 アップル社はこのような課税の抜け道を開発して来た多くの米国多国籍企業の一つである。その戦略は複雑であり、その概要は我々が出した覚書の中でより詳細に記している。アップル社は自らがアメリカにおける最大の法人税納税者の一つであって2012年だけで60億ドル納税していると主張している。しかし、アップル社はその2012年において全世界の売上げの収益から360億ドルを米国から移転し、それに対して米国に一切納税していないことには触れていない。事実、アップル社が提出しているデータによれば2012年においてだけで、そのコスト=シェアリング契約とチェック・ザ・ボックスによってアップル社は90億ドルの米国の納税を逃れているのである。これは1日当たり2億5000万ドル、1時間当たり1000万ドルの税を逃れている計算になる。
 さて、アップル社の重役たちは、会社が納税した米国税に注目して欲しいと考えている、しかし、真の問題は、その目的は純粋かつ単純に税逃れをする事であるオフショア税戦略によって納税されなかった何百億ドルもの税金である。
 本日、我々はアップル社の重役たちや税務の専門家や財務省、IRSの職員の方々にこのような租税回避戦略についてお尋ねしたい。そして我々は彼らの宣誓を聞いたのであるから、我々が本日ここに集まっている事の意味を噛み締めておきたい。小委員会で明らかにされたオフショア租税回避戦略は深刻な害を及ぼしている。それは、オフショア租税トリックを使ってその租税納付書を減額できない立場にある米国の国内企業を不利にするものであある。それらはアップル社の租税負担を他の納税者、とりわけ、労働者家族や小企業に転嫁するものである。この失われた税収は異常な割合に達している財政赤字を賄えるものである。それは年々の予算の削減や現在の我々の経済回復を脅かしている無分別な執行停止に導くものなのである。
 これらの削減により全国の子供達がその最初からの早期教育を受けられなくなっている。困窮した高齢者は食べるに事欠く状態になっている。ジェット戦闘機は我が軍がパイロットを訓練するだけの予算が無いために滑走路に置き去りにされている。税の抜け道を開発して来たアップル社やその他の企業は、米国政府と我が祖国によって提供される安全と保安と安定に依存しているのである。彼らの経済的存在は知的資産ー彼らがこの国で開発し米国の法制度の下で保護されている資産ーは、米国政府による熱心な保護に依存しているというのに、それが海外で生み出す収益が移転されているのだ。
 約30年前ロナルド・レーガンは同様の抜け道の開発に晒された租税制度に直面した。レーガン大統領の財務長官が、彼にアメリカの多くの高収益企業が税を全く納めていないと言った時、彼は唖然とした。その情報を持って彼はアメリカ国民に「その正当な負担を払っていない、あるいは全く払っていない個人や企業」を非難した。そして彼は「こんな馬鹿げた事は許されない」と言い、そして実際に許さなかった。
 我々のそれぞれが本日問うべき質問はこうである:我々は不公正な税の抜け道を塞ぎ、その歳入を我々の子弟の教育やわが国の防衛に使い、未来を築き、その財政赤字を埋めるべきではないか?このような不公正な抜け道を塞ぐことによって、財政赤字を減らし、我々の防衛や学校な道路や食品供給の安全やその他の重要な優先事項を削減するような有害な予算を避けられる。我々はこのような抜け道を塞ぐべきだ。それは不公正なものだ。我々は税法を全面的に改変するかどうかは別にして、それらの他の重要な優先事項が可能になるような予算を編成する事に力を尽くすべきである。<マッケイン上院議員とそのスタッフへの謝辞(省略)>

 

McCain上院議員による冒頭発言

(マッケイン議員)

<出席者への挨拶(省略)>

私は我々がアップル社に対して抱く賞賛の念も明確にしておく事が重要であると思う。アップル社がクック氏やその前任のジョブズ氏によって、世界中で情報や知識を広く分かち合い、情報を拡散するために、我々の生活に引き起こした信じ難いほどの変化は画期的なものだった。
 しかしながら、アップル社の法人税戦略は、法人税制度を破壊するものであり、巨大国籍企業が利益を低税率のオフショアに移転する事を許すものである。何年にもわたりアップル社は利益を移転し、米国の税を逃れる事で我が国の国庫と社会に十分な貢献を逃れる手段を選んで来た。過去4年間だけでアップル社はその収益に対する税金を440億ドルも回避したのである。
 アップル社は1,450億ドルものキャッシュを手にして世界で一番裕福な国際企業と位置付けられている。年間報告書をもとに、アップル社の重役たちは社会に対して自社が米国最大の法人税納付社であると自慢げである。しかし、その重役たちはより目立たない事実には触れないのであるが、アップル社はアメリカ最大の租税回避企業の一つでもあるのだ。
 直近ではアップル社はその全利益の3分の2以上にあたる1,000億ドル以上をオフショアの口座に隠匿している。つまり、それは現在米国法人税として課税されておらず、したがって、財政不足を補ったり、このような初期段階の大企業の誕生を促進する同様の米国経済を活性化する支援として使われることにもならない。このような租税逃れの影響は、勤勉に働いている我が国の家族を食い物にしている訳で、アップル社のような企業が何十億ドルもの税金の納付を逃れるために税の抜け道を利用する事は受け入れ難いことである。
 アップル社の法人税戦略は、米国への納税を減らすための工夫で、より強化されている。アップル社のスキームはその何十億ドルの世界的利益を米国に納税せず海外の子会社に移転する事を可能にしている。
  アップル社はいかなる意味においても米国企業であるにもかかわらず、現在、その利益の巨大な部分をアイルランドの子会社が取っているのである。本小委員会の調査で穏やかならざる事実が明らかになっている。アップル社の3つの主要な子会社がその利益の6割を取得しているのに、課税上は世界中のどこにも居住していないと主張しているのである。アップル社が米国の税の完全な支払いを逃れているだけではなく、入り組んだ悪辣な手法で、その支払うべき税を世界中で逃れ回っているのは、全く腹立たしい事である。
 具体的に言うと、2009年から2012年までの間、アップル・オペレーションズ・インターナショナルは、アップル社の世界中のその他の子会社から配当として約300億ドルを受け取っている。それはその数年のアップル社の全世界の純利益の30%を占める。しかしながら、アップル・オペレーションズ・インターナショナルは、どの国にも一切の法人税を納めていないのである。さらに、アップル・オペレーションズ・インターナショナルは数百億ドルの現金を保有していながら、社員は全くおらず、完全にカルフォルニアのアップル社によって運営されていると思われるのである。
 おそらく合法的な見せかけの必要性を感じてと思われるが、2011年を通して課税上の居住性も社員も不在であったアップル・セールス・インターナショナルは2012年に250人の社員を雇用し始めた。しかしながら、2011年に220億ドルを収益があったアップル・セールス・インターナショナルはアイルランドに、その1%の20分の1を納税しただけである。アップル社は多数のアイルランド企業に何十億ドルも流し込んでいるが、そこで納税している企業は、交渉の結果2%以下の税金しか支払っていない。アップル社は、それらアイルランド子会社は、いずれも米国への納税義務の1%も減らしてはいないと述べている。その主張は、明らかに虚偽である。
 まず第一に、アップル社が世界での事業を分割しているその方法そのものが、巨額の我が国への歳入を奪っているのである。米州以外の世界の利益をアイルランドに集約することによって、アップル社はその利益を米国の当局から防御することが可能になっている。さらに、アップル社はその最も価値のある資産、すなわち知的資産を法的権利と経済的権利に分割してきた。本社は、その米国における法的権利は100%保有しているが、その経済的権利の一部をアイルランド企業に移転し、そうする事によって何十億ドルもの利益をアイルランドに移転しているのである。アップル社の研究開発の95%はここ米国においてなされているにも関わらず、その利益の大半は、他の国のものになっている。アイルランドのアップル子会社はその研究開発への貢献度をはるかに越えた利益を得てきたのである。
 納税を引き延ばし、減少させる事を目指したこれらの手の込んだ企業戦略を使うことによってアップルの租税担当部は「人とは別の視点で考えよ」と言うその伝統的スローガンに新たな意味を与えたのである。アップル社のような多国籍企業が濫用しているこのような税の抜け穴は大企業がより小規模な国内企業に対して巨大な競争優位を与えると言う点で有害であると言うのが私の見解である。これらの国内企業は、実効法人税率を引き下げるような海外戦略を取れないため、より高い税率で納税している。それは、未だ小規模でこれから成長しようとしている米国企業がその法人利益に対する全面的課税の重さを感じている一方で、より大規模な企業が全面的な課税からすり抜けていることであり、問題とすべきである。
 租税回避のもとでの大幅な財政削減が、我が国の最も致命的な利益に影響を及ぼしている状況下、米国企業が租税における適正な分担を逃れ続けることは、許されない。我々の軍備は予算不足に陥り、我々の経済はそれに耐えられず、我が国民はこれを許すことはできない。
 米国の租税制度は破綻し競争力を失っており、私はその近代化への努力を支援してきた。 しかしながら、アップル社が取っている極めて問題の多い租税戦略から目を逸らすための言い訳を続ける姿勢を許す事はできない。アメリカの一般国民は、我が国の税金の何十億ドルもの租税逃れの穴埋めをさせられるべきではない。ほぼ1兆円にも上る課税を逃れた海外利益が米国に戻ってこないような税法上に存在する言語道断な抜け道は閉じられなければならない。アップル社のような米国企業がその租税戦略を改め、彼らが納めることにより再び米国経済に投資されるべき税を支払うべき時期が来ている。
 著名な経営者であり、アップル社のCEOであるティム・クック氏は、本小委員会において、彼はアップル社の海外資産を直ちに我が国に送還するつもりはないが、会社としては米国における生産を増やし、アメリカにより多くの雇用を生む計画をしていると証言した。それは正しい方向への一歩であり、我々はこの目標を促進するような税制を作らねばならない。
 委員長、最後に、ロナルド・レーガンがかつて言ったように、事実は揺るがないものであり以下の事実を再び繰り返して述べておきたい、すなわち、アップル社の研究開発の95%は米国において行われており、アイルランドにおいては1%以下なのである。アップル社のアイルランド子会社であるAOE、ASI、そしてAOIは納税者としては、繰り返して言うが、納税者としては、世界中のどこにも存在しないのである。アップル社は、アイルランドでの税率が2%以下になるように交渉してきた。アップル社はオフショアの課税利益の440億ドルを租税逃れするために、抜け道を使っている。ASIは2011年において22o億ドルの利益に対して1000万ドルしか納税しておらず全世界に対する税率は0.05%なのである。ASIは2009年から2012年の間にアップル社に対して、コスト分担金の半分より少し多くを支払ったが、390億ドルに対して740億ドルと、アップル社の利益の2倍以上を手にしている。アップル・オペレーションズ・インターナショナルは、2009年から2012年の間、300億ドルの配当を受け取っていながら納税額はゼロであり、アップル社の1450億ドルのうちの1,020億ドルの現金を海外に保有している。 以上議長に感謝申し上げる。

 

PAUL上院議員による冒頭発言

(ポール上院議員)

正直言って、私はこの聴問会の空気と雰囲気が不快である。私は、4兆ドル規模の政府がアメリカの最も成功した物語を苛め叱りつけ悩ます事が不快である。ここに居られる政治家の方々の中で、その税金を出来るだけ減らそうとしていない方が居られるようであれば教えて頂きたい。もしあなたが雇っている財政責任者が合法的に税を減らしたいとしておられない人が居るとすれば教えて頂きたい。アップル社が違法な事をしたのだとすれば、教えて頂きたい。
 私は内国歳入庁を使って(かつての米国史上のような)テー・パーティを痛みつける政府が不快であるし、またアメリカの偉大なる成功物語の一つを苛めるために公聴会に召喚する政府が不快である。私は、何ら違法な事をしていないアメリカの企業の役員を引きずり出して見せ物にする政府が不快である。ここで、もし裁判をするというのであれば、それは本会議においてであろう。
 正直なところ、委員会はアップル社に謝るべきであると私は思う。私の見解では、議会が何万ページに上る異様に複雑な税法規則を作り出し、世界のどの国にも見られないような税法規則を生み出した事に対してここで裁かれるべきであると思う。
 この委員会はおそらくアップル社がいかなる法律にも違反していないと認めることになるだろう、にも関わらず我々はここに座らされアップル社もまた政治家たちの気まぐれな裁判芝居の間、座らされているが、事実としては偉大なアメリカ企業の海外での利益を追求している事に対して議会こそが裁かれるべきなのである。
 我々がこの委員会の前にアメリカの最も偉大な成功物語を引っ張り出してくれば皆さんは拍手喝采したくなるでしょう。私はアップル社の役員たちの代わりに本日ここに大きな鏡を持ち込むべきだったのです。いいですか?そうすれば、この問題は凄まじい税法規則によってのみ完全に生み出されたのだから私たちには議会の姿が映し出されるでしょう。もしあなたが非難を向けるとすれば、この委員会はこの鏡を覗き込んで一体誰が騒動を起こしたのか、そしてアメリカの企業の海外の活動を追求するようなこの税法規則を作り出したのは誰なのかを見る必要がある。
 我々の税法規則はカナダの倍であるが私はカナダの税法規則に何かを追加するべきだとは思わない。我々のものはカナダの倍であり、ヨーロッパ諸国の倍である。彼らのものが低いのだと言う代わりに我々のものが高過ぎるのだと何故気づかないのだろう。
 アップル社は60万もの仕事、アメリカの仕事を生み出した、それなのに我々は彼らを苛めるために、この委員会に引きずり出したいのか?これは言語道断だと私は思う。
 私の州ではダウ・コーニング社が70億ドルの売上げを上げた。彼らはゴリラガラス(特殊な強化ガラス)を作り出したが事実上廃業している。1990年代アップル社は苦しんでいた。想定しなくてはならないとしても、残念ながら私はアップル社に投資する事は想定できなかった。事実として、人々は1990年代には、この会社は潰れるのではないかと心配していた。彼らは一つの機種のコンピューターを作っていたが、それは上手くいってなかったが、全く突然に技術革新が生まれたのである。それなのに、我々は彼らを引っ張り出してその成功を責めたいのか?
 数年前我々は外国資本を追い返した。外国資本は本国に戻れと我々は言った。税金を倍にしたのではない。我々は35%で課税した。5%の税率にしようではないか。外国企業が送還する利益に5%の課税をし、それを社会インフラに回す法案を私は用意している。我が国は、おそろしく社会インフラへの資金が不足している。しかしそれを得るために35%にしては駄目だ。そうすれば、得られるのはゼロだ。5%にして社会インフラへの基金を創設しよう。それに賛成する票は70票はあるだろう。だが誰もそれを持ち出さない。何故だ?彼らは、捕まえ所がなく高過ぎて登れないような税制全体を緩和するべきだと言う。明日にでもそれを通したらどうだ?
 なぜ人々は議会に不満なのか?それは正しい事をやってないからだ。誰もが、アップル社をこの委員会の前に引きずり出した人たちだって、我が国の税法規則が問題の一部であり、母国に送還される5%を取ったらどうかと思っている。その法案を通したらどうか?いや、議会予算局(CBO)での評価では歳入は中立的でなければならないのかもしれない。そうするのが正しいならそうすればいい。
 私は、我々はアップル社に謝り、彼らが作り出した仕事に対して賞賛し、我々自身の仕事をしなければならないと思う。自分自身を鏡に映し税法規則をより良く公平で世界的競争力を持ったものにしなければならない。お金は歓迎される所に回ってくる。現在ではこの国の税法規則はお金がこの国で歓迎されないようにしているのだ。
 以上で、議長へお礼を申し上げる。

(レビン上院議員)ポール議員、ありがとう。もちろん、そうご希望ならどうぞ謝罪して下さい。それは本委員会に関わる事ではありません。この委員会は、アメリカの人々のために機能しておらず、この国のためになっておらず、そこでは、事業体がどれ位納税しようか、あるいは納税しないでおこうか、とかその利益をどれだけオフショアに残そうか等々、税金を逃れるためにありとあらゆる手配ができるような状態になっている税法規則について調査する事が目的です。アップル社は偉大な会社だ。しかし、どんな会社であれ、税金をどれ位払おうか、利益のうち、どれ位をオフショアに残そうか、あるいはまた、どれ位本国に戻そうか、などと言う事を本来この国に納めるべき税金を逃れるためのあらゆる種類の策略を使うことは許されない。彼らはこの国を利用している。彼らは我々の法制度を使っている。彼らが何を望んでいようとそのためのロビー活動をここでする権利は持っている。そして、彼らはここで大いにロビー活動をしている。しかしながら、私の見解では、彼らはどの程度税金を払おうか、誰にその税金を払おうかという事を決定する権限は無い。アメリカの人々はそれが正しくない事を知っている。あなたが鏡を立てたいならあなたがそうしたい人に向けてやればいい。あなたがそうしたいなら誰にでも謝ればいい。本委員会は、アップル社に謝る事はしない。我々が彼らをこの委員会に引きずり出したのではない。彼らは自分たちのやり方を説明したくて、進んでここに出て来たのだ。我々は彼らがどんな仕掛けを使っているのかについて聞いてみたいと思っている。我々はまた何人かの専門家からの意見を聞く予定であり、その専門家たちはこれから我々の前で宣誓するところである。
 さて、今朝の最初の証人の方々をお呼びしたいと思う:ペンシルバニア州ビラノーバのビラノーバ大学法学部教授のリチャード・ハーベイ先生、マサセッチュ州ケンブリッジのハーバード大学法学部教授のステファン・シェイ先生である。
<以下、二人の教授への歓迎コメント 等(省略)>

 

ペンシルバニア州ビラノーバのビラノーバ大学法学部

Richard Harvey教授の証言

(ハーベイ教授) 

<委員長と委員会メンバーへの謝辞(省略)>

オフショアの多国籍企業の移転価格と利益移転を巡る問題はきわめて重大な問題であり、我々はここで、具体的にアップル社がその目的を達成するために使っている手法について議論したいと思う。
 私の職業的履歴は私の証言文書に述べているが、要約すると、私は現在ビラノーバ大法学部教授と租税学専攻大学院の教授をしており、ビック4(4大会計事務所)のパートナーからの引退者であり、前IRS(内国歳入庁)の上級職員であり、また、1986年の税制改正法時代の財務省税制担当役員をしていました。それで委員長の許可を頂き、記録証言文書を提出し、口頭で主要な要約を述べさせて頂きたい。
(レビン議員)それは、事前に頂いた証言文書ともに記録の一部に入れさせて頂きます。
(ハーベイ教授)結構です。では、私はアップル社の租税戦略について、何点かお話し、その後アップル社のような企業がどのようにして、その収益のオフショアへの移転をやっているのかについて簡単に議論したいと思います。その後、願わくば本委員会が推奨出来ると考えられるであろう租税方針に取り組んでみたいと思います。それで、まず一般論から始めます。
 最初に、本日はアップル・バッシングの日になるのではないかと懸念してしておりますが、しかし私はアップルにとって、ちょっといい知らせから始めたいと思います。そして、その良い知らせですが、詳細な監査まではしていませんが、それはIRS(内国歳入庁)に任せるとして、アップル社がやって来た事は現行の国際税制の元では受け入れられる範囲内にはあるのではないかと推測しています。
 しかしながら、れっきとした問題は生まれており、しばらくそれについて話したいと思います。
 次に私が述べておきたい事は、アップル社はその2011年の収益の64%を、あなた方が明かしているように、アイルランドの基本的に社員も居らず現実的な活動は何もしていない会社に配分することが出来たということです。それは根本的にペーパー上の会社なんです。
 さて、恐るべき事はアップルはその全世界の利益の64%をその見せかけの会社に配分したと言う事です。おそらくさらにそれ以上を配分している他の多国籍企業は存在します。だから、ある程度は、アップルは他の企業よりは過激でないのかもしれません。とは言え、しかしアップルはなお、その収益の巨大な部分、2011年の収益の64%を、社員も居らず現実的な活動もしていない会社に配分した事は間違いない。
 だから、私の見解では、本日の問題はアップルの現在の手法が合法的かどうかではないのです。そしてまた彼らが地球上最も貪欲な多国籍企業かどうかも問題でもありません。そうではなくて、むしろ、真の問題はアップルやその他のアップルのような企業が、社員も居らず実際の活動もしていない企業にその利益の64%を付け替えることがまともなのか、と言うことである。それこそが我々が焦点を当てる必要があると私が考える真の問題です。そして、また、私はもし議会がそれを選ぶならば議会が扱うべき問題が存在すると思います。
 さて、アップルがどうやってそれほどの利益をアップル・セールス・インターナショナルという企業に付け替える事が出来たのかについて注目しましょう。私は報告資料において主として2011年に焦点を当てました。つまり、彼らは2011年において、220億ドルの税引前利益をアップル・セールス・インターナショナルに付け替えました。そして、疑問はこうです:彼らはどうやって、これをやり、しかも0.005%という税率を達成したのか?そして、その点に触れる前に、昨日のアップルの公的な場での証言に対して、直接申しておきたい。具体的には、その証言の中で、「アップルはトリックを用いていない」と言ったのです。私はこの言葉を聞いて、椅子から滑り落ちそうになりました、なぜなら、税のトリックというものを考える時、アップルの使っている手法は間違いなく「トリック」と見做されるだろうと思うからです。しかし、アップルが4年間にわたって740億ドルの利益をもたらしたが、4年間のうち3年間は、社員が居らず、最後の年になって250名の社員を雇い、実質税金を全く納めなかったアイルランド子会社がトリックを使ったのかどうかの判断はこの委員会自体にお任せしよう。
 そこで、私は、皆様方が本日の公聴会を聞く際に、トリックや、あるいは、おそらくテクニックや道具があるのかどうかについて考えて頂きたいと思いますが、しかしまたそれに対してどうすべきなのか、という事についても考えて頂きたいと思います。
 さて手短かに言ってアップルがこのような結果を達成する事を可能にさせた決定的要素があり、レビン委員長とマッケイン上級委員が既にその一部については論じておられるのですが、取り急ぎ、それを要約してみたいと思います。
 第一の重要な問題は、米国には、独立企業の原則による価格決定がある、という事です。つまり、二つの同系列会社の間で取引を行う際、それが独立企業原則による価格決定で行われる際にのみ認められる、という考えです。
 さて、これはその取引が比較的単純であるなら、例えば、がんの除去というようなサービスの提供とかiPadやiPodやiPhoneの開発などであれば通用します。
 結果的に言えば、この独立企業原則による価格決定によって、アップルがやっているのはアイルランドの子会社に対して、アメリカ以外の地域での事業に関しての開発の権利を移転するような契約を結んでいるのです。コスト分担契約は米国税法においては合法的なものです。そこで、私は本委員会のメンバーの方々、最終的には、議会のメンバーの方々に、アップルのような会社がその金の生る木を社員も居らず、ほとんど活動をしていないような外国の関連会社に移転するような契約をする事がまともな事なのか、という問題を考えて頂きたいと思います。それが第一の問題です。
 2番目の問題は米国にはいわゆるサブパートF規則があるという事です。そのサブパートF規則は課税されない所得のために設けられており、アップルは租税回避出来ているのです。アップルはその大半をチェック・ザ・ボックス規則と被支配外国企業(CFC)の黙認規則によって回避する事が可能になっています。
 さて、チェック・ザ・ボックス規則によって、アップルはある企業が存在していないかのように見做し、結果的にその取引を消してしまうように扱う、神のような手段を取り得るのです。
 さて、我々の子供が小さかった頃、ー私には4人の成人した息子が居り、彼らが小さかった頃、彼らは魔法のように大きくなりましたがーチェック・ザ・ボックス規則は、物をフッと消してしまうような特徴があります。現在、我々税の分野にいる人間は、チェック・ザ・ボックス規則はサブパートF規則を避けるための手段と考えていますが、他の大多数の人たちは、それを神の手によって取引を米国税法の下から消し去るという意味でのトリックに出来ると見ているのではないか、と私は推測しています。
 アップルの計画の3番目の重要な問題は彼らがアイルランドにおいてもほとんど納税せずに済んでいるという事です。彼らがアイルランドの税務当局と具体的な取引を止めたのかは私には分かりません。彼らがスタッフの何人かにした証言から私はそう信じるようになりましたが。しかし、この48時間を経過した後のこの時点で、我々はアップルがアイルランドに運営も支配もされていない企業を持っており、事実、そのアイルランドにおける主な企業は運営も支配もされていないのですが、その結果アイルランドに納税義務を持っていない、という事が分かりました。しかし、たとえそうだとしても、その諸企業が、4年間で740億ドルという巨大な収益を記録していながら実質納税していないという事が肝心な結果です。
 4番目の重要な問題ーそれは実際、アメリカ以外の世界中の国々にとって重要なことですが、アップルは、米国とアイルランド以外の地域で全世界のほぼ60%を売上げているが、その利益の6%しかそこに配分していないという事です。そして、そんな事が可能になったのは、それらの国々で営業している企業に対して最小の手数料しか払わない事によるという事です。私は、それがいかなる意味でも違法であるとは言いませんが、それが彼らの計画の帰結するところなのです。彼らは世界中のそれらの国々に売り込む手数料を支払ってはいるが、その収益のうちの740億ドルはアイルランド企業に保有される結果になっています。そして、アイルランドに納税された税金の不足に関して世界中で興味深い宣伝がなされているのではないと思います。
 さて、残りの時間が無くなりつつあるので、急ぎますが、しかし、ここで真の問題は、ではこの事態をどうするべきなのかということです。そして、私がさらに重要と思う問題は「何か手を打つべきなのか、だとすれば、何をすべきか?」という事です。そして、多国籍企業の重役以外の、ここで私が話しているほとんどの人は、こんなにも大きな利益が実質的な意味のある実体が何も無い企業に配分されている事に対して何かがなされなければならない、という点に同意して頂けるだろうと思います。こんな事が許されているのは馬鹿げた事です。何かをしなければならないという事については広い同意を頂けると思いますが、では何をなすべきか、という点については、ご意見は分かれ、いつくかのシナリオがあるでしょう。一つのシナリオは何らかの世界的合意が生まれるのを待つというものです。経済開発協力機構(OECD)は、まさにこの問題を調査研究しており、1、2ヶ月後には何らかの意見が出される予定です。しかし私の経験からすれば、OECDはそんなに早くは動けません。
 2番目のシナリオ、もう一つの選択肢は、米国が単独で動く事ですが、特にこの問題に対して、世界中で進行している問題と迅速に取り組もうとするのであれば、必要とされるのは単独の行動です。
 そこで、私の提案は以下の通りです:
 短期的には、議会は外国企業に対するチェック・ザ・ボックス規則を厳しくするとか、あるいは、CSCの黙認規約を厳しく限定する、もしくはアップルが実際にはやっていないので言及していないが、製造契約規定を厳しく限定する、などの方法によってサブパートF規則を厳しくすることなどを考えることです。
 さらに加えて、私は短期策として議会が透明性の強化を考えてはどうかと思います。米国の多国籍企業は、彼らの収益を会計的にも税務的にもどこで収益を上げているのか、またどこで納税を記録し、どこで税を払っているのか、その他これらの企業を監査し全世界での税務管理を行う上で有用な要素について、追加的な報告をさせるべきです。独立企業原則による価格設定モデルがある以上収入を移転させる企業は現れますから、より長期的には、さらなる対策が必要です。そこで私は米国がOECDで進行している事を注視し続ける事を強くお勧めしたいと思います。しかし、世界的合意が達成出来ないとしても、私は、米国が法人税率を15%にまで引き下げるまでは、全世界的課税システムを採る事はお勧め出来ません。
そして、それは、近日中、直ぐに出来る事ではないと思いますので、その選択肢は否定されるでしょう。しかしもし、米国が独立企業原則を守っていくのであれば、海外の収益に対し、殊にタックス・ヘイブンのものに対して最低限の課税をする事をお勧めしたい。しかし、この税は実効的な形で設計されなければなりません。私的分野での税務顧問として、また政府の職員としての経験から、実効的なものでなければなりません、そして、いくつかの具体的な提案を文書による証言の中で述べております。
 そしてまた、もう一つ私が触れなかったのは、海外の活動に関する控除を延期する必要性です。米国の多国籍企業がよくやっているのは、米国において、海外からの貸付を受け、その金利分を米国で控除するのですが、彼らはその利息を米国で認めていないのです。これもまた注目すべき問題だと思います。
(以下、謝辞等のやり取りー省略)

[ 参考文献 ] 

EUアップル裁判 EU一般裁判所判決(2020年 7/15)
JUDGMENT OF THE GENERAL COURT  (Seventh Chamber, Extended Composition) 15 July 2020
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/TXT/?uri=CELEX:62016TJ0778

EU委員会のヨーロッパ司法裁判所への控訴理由についての声明
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/STATEMENT_20_1746

米国上院議会報告書『オフショア利益移転とU.S.税法 パート2』
(OFFSHORE PROFIT SHIFTING AND THE U.S TAX CODEーPART 2 (APPLE INC.)』https://www.govinfo.gov/content/pkg/CHRG-113shrg81657/pdf/CHRG-113shrg81657.pdf

高久隆太『アイルランドとEUの租税紛争』(泉文堂、2017 )

森信茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社、2019)

諸富徹『資本主義の新しい形』(岩波書店、2020)

Edouard Fort『EU State Aid and Tax: An Evolutionary Approach』
( EUROPEAN TAXATION  September 2017 )

矢内一好『EUのアップル判決の影響』(税務事例 Vol.52 No.11、 2020年11月)

税金を払わぬ巨大企業 日本だけの問題ではないGAFAの法人税逃れ(https://www.google.com/amp/s/www.sankeibiz.jp/business/amp/190810/bsm1908100903001-a.htm)

<脚注>

[1] 矢内一好『EUのアップル判決の影響』(税務事例 Vol.52 No.11 P.12 )

[2] 諸富徹『資本主義の新しい形』(岩波書店 P.26)

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。