今春、新しい経済学部大学院博士課程に入学して、早くも前半の前期が終わりました。現代の歴史に記録として残される事は間違いないであろうコロナ感染症騒動の中で、急遽、オンライン講義とゼミに切り替えられての半年でした。
2年前からの会計研究科時代はほぼ毎日通ったキャンパスにも、今春、2、3回しか通わず、ほとんど自宅からのリモートワークでしたが、それなりに便利で快適で個人的には何の不満もありませんでした😊
博士課程前期のゼミで、自分なりの研究テーマを見つける事が課題でしたが、《デジタル経済とIT課税問題》に絞られて来たように思います。
しばらく投稿も出来ませんでしたので、最近、提出したレポートをアップしておきます。
地方税法 レポート
EM20R802 松賀正考
地方税の特質は、基本的に全国的に均一な国税とは異なり、当然のことながら地域ごとに状況が異なり、各地域によって様々な面での格差が存在する事である。殊に顕著なのは地方法人2税と言われる法人事業税・法人住民税であり、地域間での偏差が際立っており、利益を上げている法人企業群が集中する東京都と過疎化が進む地方の県とでは最大で3倍以上の格差がある。そのままでは財政の豊かな東京都や大都市圏では、その地域の行政サービスが充実できるのに対し、財政力の無い地方圏では基本的な行政サービスを行うことすら困難な状況になってしまう。
もちろん、このような地方財政の極端な格差が放置されている訳ではなく、その格差を縮小させる制度が存在する。いわゆる地方交付税での財政調整である。つまり、地方税収の少ない府県には、その財政を補うために、国から地方交付税が交付される。実態としては、極端に財政の豊かな東京都を除いては、大半の府県がこの地方交付税の交付を受けている。この地方交付税制度によって格差は数分の一のレベルに縮小されている。しかしながら、この交付税制度による財政調整の機能は、交付税を受け取っている交付団体の間に限られる。多くの交付団体と東京などの不交付団体との格差は残るままである。
この問題への解決としては、本来、地方法人2税のような偏在性の大きい税源に代えて偏在性の少ない税源を地方に与える事であるとされる。しかし、このような正攻法からの改革は中々難しく、今、様々な面で話題になっている「ふるさと納税」などが制度化されてきた。この制度は、「納税者が自分の意思で、納税対象を選択できる」と言う意味で画期的なものとされ、よく言われるように「高校まで地方で育ち、いよいよ納税する時は、都会へ出て行く」という矛盾を解決すると言われた。その結果として、確かに都市圏から地方へ税が移転されたことは事実なのであるが、個人住民税の全国総計が十数兆円に上るのに対しせいぜい数十億円レベルであり、問題の解決には程遠い。また、しばしばマスコミのニュースになるように、様々な制度的問題があるのも事実である。本来なら各地方自治体が、その地方行政の施策面での競争をするのが望ましい形であるが、結局単なる返礼品の多寡を競い合い、マスコミのニュースでは返礼率が40%を越し、しかも地元産品とは無関係なAmazonのギフト券を出す自治体も現れる始末で、その本来の意義が見失われてしまった感がある。
また、税制の抜本的な改革において、偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の暫定措置として2008年に導入された地方法人特別税制も、想定されたほどの成果が出ないまま、昨2019年9月で廃止された
しかしながら、地方税における公平とは何を基準に考えるべきなのか、と言う問題は単純ではない。単なる財政規模ではなく住民一人当たりで考えると言う基準もある。課税の応益性という視点もあり、それも生涯ベースで考えると言う視点もあり得る。このような問題を地方自治体間のレベルで論議することはそれぞれの立場からの主張があり収拾がつかないであろう。やはり、地方税制度の改革と言う全体的枠組みから理論的な議論が必要である。
佐藤主光氏によれば、財政の機能は、資源分配機能、所得再分配機能、経済安定化機能などがある。このうち所得再分配機能と経済安定化機能は、国レベルに留保し、地方が積極的な役割を果たし得るのは、資源配分機能においてとされる。地域に密着した(受益の範囲が地域的に限定されている)公共財・サービスの提供には地方自治体に優位があるからである。
数年前、ニュージーランドに10日間ほどのホームステイ=ツアー*をしたことがあり、その時、規模感の類似を感じて、兵庫県のデータとを比較してみたことがある。ニュージーランドの人口が495万人であるのに対し兵庫県は545万人、またGDPで見ると、ニュージーランドが日本円換算で約21兆円(2017年)に対し兵庫県の県内GDPはほぼ同等で21兆円である。これに対し、ニュージーランドの財政規模は日本円換算で約10兆円であるのに対し、兵庫県の県財政規模は約2兆円である。当然のことながら、ニュージーランドの財政は、国レベルであり、上記の財政機能の全てを担当しているのに対し、兵庫県の財政は、主として、地域に密着した公共財とサービスという資源配分機能に集中していることを表していると思われる。
〈* この時の雑感はこちら〉
今回の県の財政を担当している立場からのセミナーは、そのような資源配分機能に集中した県財政の現状を聞かせていただき、様々な面で興味深かった。
財政学では、公共事業や福祉を含めて政府や自治体の果たすべき役割とその実際を区別し、前者を規範分析、後者を実証(事実解明的)分析とされるが、この二つの分析を使い分ける必要があり、いずれにおいても、経済学的な分析に基づく事が重要であるとされる。県の財政を見る上でも、実証的データに基づいた経済的分析を行う必要があると感じられた。
<参考文献>
川村栄一『地方税法概説』(北樹出版、第1版、2009年)
丸山高満『地方税の一般理論』(ぎょうせい、第1版、1983年)
佐藤主光『地方税改革の経済学』(日本経済新聞社、第1版、2011年)
ふるさと納税ガイド(https://furu-sato.com/magazine/11280/)
ウィキペディア 地方法人特別法