Marketing Report 2 (Amazon vs. Apple )

マーケティング レポート 2

  『流通チャネルの意義』

<AmazonとAppleの流通チャンネル>

  ( English Version is HERE )

IT界の超巨大企業として並び称される『GAFA』のうち、それぞれカリスマ的経営者としてJeff Vezos が率いて来たAmazon社と長く(故)Steve Jobsによって率いられて来たApple社ほど、その流通チャネルの対照的な例は類を見ないであろう。

Amazonはネットを通して全ての人に開かれているという意味では開放的流通チャネル政策なのかもしれないが中間の流通業者が存在しないという意味では逆に閉鎖的と言えるのかもしれない。

あるいはこのような新しいビジネスモデルに対しては新しい概念設定が必要なのかもしれない。言うまでもなくAmazonはネット通販の世界最大の大手企業であり、その企業としての営業活動は全てネット上で行われるe-コマースである。Amazon Store というリアルな実店舗は世界のどこにも存在しない(最近アマゾンゴーという新業態の無人キャッシュレスコンビニを始めたが)。しかしながら、今や現代人にとって、それなしではあり得ないほどの基礎インフラとなったあらゆるIT端末、殊にスマホは全てAmazonの店舗の入り口である。人が何かの商品を購入検討して、ネット端末でその商品名や商品ジャンルを打ち込むと、大抵は、Amazonの店内に入り込むことになる。その扱う商品、業種はあらゆる分野に渡っており、驚くべきことに、その商品棚には、新品のみならず、同じ商品の中古品すら並んでいる。先日もブランディングに関する書籍を検索していたら、新品定価2,000円の商品が、Amazon商店にはいくつもの中古品が並べられており、私はその中でも、<程度 良>と表示されていた中古品を500円で購入した。書籍は基本的に情報のコンテナであり、情報さえ得られればいいのだから、これで十分である。

しかも私は(特に手続きを意識してした記憶すらないのに、いつの間にか)Amazon Primeの会員になっており、商品の送付先の自宅住所も、支払いをするクレジット=カードも全て登録済みなので、その選んだ商品を『購入する』というボタンをタップするだけで、注文は確定し、数日後(商品の多くは、特に新品の場合、翌日配送が通例であるが)自宅に送られて来た。

そして、このネットを通した購買履歴は、全て自動的に詳細な顧客ごとのデータベースに蓄積されて行き、その購買履歴から推測される(おそらくその顧客が関心を持ち、購入意欲を持ちそうな)類似商品を紹介するメールが定期的に送られて来る。

さらに、Amazonは自らが販売者として、商品を売るだけではなく、『アマゾン=マーケットプレイス』という形で、他の販売業者に販売チャンネルを提供している。このシステムによって、Amazonは、販売手数料収入を上げると同時に、Amazonを利用する顧客に対して、ありとあらゆる商品の品揃えをする事が可能になっているのである。

このようなネット上の流通システムを構築する事によって、Amazon自体は、その経営資源をこのシステムを支えるバックグラウンドに集中することが出来た。Amazonは、その膨大な在庫商品を保管し素早く仕分け発送するため、ロボット技術を徹底的に活用した配送設備を持つ倉庫群を増強して来た。また、同時に、極めて安定したWebシステムを構築して来たのであるが、さらに は、このWebシステムそのもの(AWS)を利用するサービス自体を販売することによって、さらに大きな収益を上げるドメインにまで手を広げている。

このような全くの無店舗経営で、Jeff Vezos は、世界一の富豪にまで登り詰めた。

 

IT界に並び立つもう一つの巨大企業であるAppleの流通チャンネルは、閉鎖的と分類されるであろう。その流通チャネルはAmazonとは、極めて対照的でかつユニークである。ITの世界で常に最先端を走り、数々の革新的な製品によって新しいマーケットを切り拓いて来た企業であるにもかかわらず、Appleは世界の主要な高級ショッピング街で他の高級ブランド店と競うが如く豪華な内装と雰囲気の直営店を次々に展開してきた。このリアル店舗への取り組みを始めた時、評論家たちはIT界の先端企業に相応しくない、この戦略は失敗するに違いないと一斉に批判した。

しかしながら、この世界19カ国の高級ショッピング街で同社の製品だけを扱う492店のApple Store はApple製品のブランド化に大きな役割を果たし、巨大な収益をもたらす源泉となった。

(ニューヨーク5番街のApple Store)

(パリ・シャンゼリゼ通りのApple store)

(東京 銀座のApple Store)

さらに、我が神戸の家電店においてすら、Appleは他のIT機器とは別フロアに専用コーナーを設置させ、店内にミニサイズのApple Store を作らせているのである。

ネット上の店舗は即時にオープン出来るが同時に瞬時に消え去ることもあるのに対し、これらのリアル店舗での流通チャネルは、長い期間と大きな投資を伴って展開されたものであり、同業のライバルがこれに追いつこうとしても、最早それは不可能であろう。その意味でライバル企業に対する巨大な防御壁にもなっている。このような直営店を中心にした独自の閉鎖的な流通チャネルを構築すると同時に、もちろんネット上にもApple Storeは存在し、Apple社の製品を定価販売している。その戦略はユニークで巧妙と言わざるをえない。

 (ジョーシン三宮店で他企業とはフロアを別にしたApple コーナー)

<参考文献>

スコット・ギャロウェイ. GAFA ―四騎士が創り変えた世界―. 東洋経済. 2018. 416p. 

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。