ビジネス特論レポート(イノベーション)

大学院で今回出たレポート課題は、2つあり、

課題1
オープン化・クローズド化をコントロールして成功している事例を一つ挙げ、説明しなさい。

課題2
イノベーションの事例を一つ挙げ、どういう点で顧客価値や事業価値を創造しているかを述べなさい

というものでした。前稿の課題1に続いて、課題2のイノベーションについても、事例として、スマートフォンを取り上げてまとめてみました。

21世紀初頭における画期的なイノベーションとしては、「スマートフォン(スマホ)」の劇的な技術的進化と、その広範で急速な普及は外せないものの一つであろう。

携帯電話自体も情報の受発信を完全にパーソナルなものにしたという意味で、現代社会における人間関係のあり方、ひいては個人の生き方にすら根本的な影響を及ぼした。それだけではなく、例えば、アフリカ諸国のように社会全体の情報インフラの整備が遅れていた地域において、固定電話のような電話線ケーブルや中継施設設置の膨大な設備投資を省略して、いきなり各個人がそれぞれの情報端末を持てる状況が生まれてしまった。

そのような大きな社会的インフラの問題とは別に、固定された電話機に縛られず、個人が自由に移動しつつ繋がり合える状況が生まれたことの意味は極めて大きい。

このように、携帯電話の出現自体、我々の情報生活に、ある意味革命的な変化を引き起こしたのであるが、さらにこの極めてパーソナルな個人的情報端末がインターネットと接続されることによって、個人相互の情報交流だけでなく、個人それぞれが時と場所を選ばず地球規模の情報の大海に自由にアクセスできる状況を生み出した。このイノベーションが持つ意味の深さと社会全体に及ぼす影響の大きさは巨大なものである。

携帯電話のインターネット接続は、おそらく日本の企業であるNTTの始めた i-mode がきっかけだったのではないか、と思われる。携帯電話で通話のみならず、メールの送受信が出来るようになった i-mode の開始は大変印象的だった記憶がある。それまでオフィスや自宅のデスクに向かいPCを立ち上げてからようやく受発信できたメールのやり取りが日常的に持ち歩いている携帯電話で出来るようになったことで、メールの利用価値はぐんと増し、電話とは違ってお互いに相手を拘束せず、それぞれの都合のいいタイミングで情報をやり取りできる『非同期通信』の便利さが日常生活の中にしっかりと根付き始めた。

携帯電話がインターネット接続を果たせば、そこからスマートフォンへの機能展開はほんの一歩に過ぎなかった。しかし、その一歩で日本の企業は立ち遅れ、この画期的なイノベーション技術は iPhone でIT業界の主役に再び躍り出た Apple 社を中心に展開することになった。Apple 社は Macintosh シリーズで新次元を開くイノベーション製品を開発して以来、Mac が Windows に押されてからも、i-Pod で音源の完全なデジタル化と究極のコンパクト化をすることでソニーのウォークマンを圧倒し、i-Tune によりデジタル音楽配信という音楽コンテンツの販売システムを創り出し、CDを音楽媒体の主役から追い出すなど、次々に画期的なイノベーションを引き起こし続けてきた。しかしながら、Apple 社の様々なレベルでのイノベーションが全て上手く成功したわけではない。ウェアラブル端末として大宣伝をかけた割には定着しない Apple Watch のような例もある。

iPhoneも発売された当初は、変わった欲張り機能の携帯が出て来たなぁ、という程度の印象だった。私自身、初代iPhoneの購入者の一人であったが、海外からも簡単に繋がるという機能に惹かれて購入した経緯で、あくまで二台目のサブ的購入だった。それから数年のうちに、個人の情報端末としてこれほど急速かつ広範に行き渡る状況が来るとは、夢にも思わなかった。おそらく、決め手は、インターネットに繋がり、メールの送受信が出来る事に加えて、ブラウザー機能を持ち、ホームページ閲覧機能が付いたことではなかったか、と振り返って思われる。この機能がスマートフォンに付く事によって、この個人的情報端末は、グローバルな情報の大海からいつでもどこでも自在に情報を引き出せる魔法を手に入れたのである。
もう一つ、注目していいのは、完全な同期通信である音声通話と非同期通信であるメールとのちょうど中間的な機能を持つLINE等の通信システムやSNSと総称される情報交流システムの利便性の認識が広まることによって、その普及が加速した点も見落とせないであろう。
もちろん、これは単なる端末としてのスマートフォンのイノベーションにとどまらず、その革新的技術が実用レベルで使えるための通信環境の技術革新と発達が同時併行的に進んだことも見逃せない。その通信環境も、4Gから5Gへの進化によってさらに新たな画期的変革を迎えようとしており、その今後の変化に注目し続ける必要がある。

いずれにしても、スマートフォンという個人情報端末のイノベーションによって、その顧客は、従来技術ではありえなかった画期的な情報通信環境を手に入れる事になった。その顧客価値の大きさは計り知れないと言えるだろう。

一方で、このイノベーションを主導したApple 社は、パソコンOSをめぐる熾烈な競争においてWindows のオープン戦略に圧倒された後、このパーソナルな情報通信のイノベーションの主役に躍り出て、その事業価値を飛躍的に高めた。今や、IT業界における世界的巨人として、GAFA(Google、Apple、Facebook 、Amazon)と並び称される立場に至った。

アマゾンからの(私の読書傾向のAI分析による?)おススメに従って取り寄せたGAFAをテーマにした書籍によると『アップルはビジネス界ではとうてい無理と思われてきた目標、すなわち低コストの製品をプレミアム価格で売ることに成功した。そしてアップルは歴史上最も利益の大きな企業となった。2016年第4四半期、アップルは創業時からの総計で、アマゾンの2倍の営業利益をあげた。アップルの手元資金はデンマークのGDPとほぼ同じである』と記載されている。

パソコンOS戦争に勝利し、創業者ビル=ゲイツが世界一の富豪にまで上り詰めたMicrosoft が、依然として巨大企業ではあるもののGAFAの中には入らず、その存在感がやや薄い印象があるのは、皮肉であるだけではなく、IT分野における技術革新の激烈さを改めて感じさせるものである。

<参考文献>

スコット・ギャロウェイ.  GAFA ―四騎士が創り変えた世界― . 東洋経済. 2018. 416p. ISBN978-4-492-50302-7

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。