課題レポート(オープン化・クローズド化)

大学院の『ビジネス特論』という科目で、課題レポートが出ました。今回は、<オープン化・クローズド化をコントロールして成功している戦略事例を1つ挙げ、説明しなさい>というものです。自分としては、長いお付き合いのあるPCの世界についてまとめてみました。

オープン化戦略とクローズド化戦略を取った企業間の熾烈な争いの典型的な例として、個人の情報端末機器としてのパソコンのOSを巡る争いが挙げられるであろう。

1982年、日本で初めての個人用コンピュータ、すなわちパーソナル・コンピュータとして、PC-9801という製品がNECから発売された。

 

この個人用情報端末は、パソコンという形で普通名詞化して行き、社会の基礎的インフラとなって行く。当時、この個人用コンピュータに搭載されていた基本ソフト、すなわちオペレーション・システム(OS)は、MS-DOSと呼ばれるもので、現在から見れば、きわめて原始的で使い勝手の悪いものであった。すなわち、ユーザーとこのコンピュータの接点であるモニター画面にはただユーザーがコンピュータに出す指令、すなわちコマンドを打ち込むための表示画面があるだけで、この画面上で点滅するライン上のポイントに英語のコマンドを打ち込むことで、コンピュータに指令を送り処理させる、という原始的なシステムであった。

このような殺風景なユーザーインターフェイスを抜本的に改善し、分かりやすく親しみやすいグラフィカルユーザーズインターフェイス(GUI)を搭載した画期的なパソコンが1980年代後半、Apple 社から発売された Macintosh シリーズであった。画面には、各種のアイコンと呼ばれる小さな画像が並んでおり、これをマウスという操作機器でコントロールされるポインターを動かしてクリック操作で命令を出す、という画期的な新しいパソコンであり、ユーザーからは熱狂的に支持され、多くのMacファンが登場し、このMac シリーズの製品は市場を席巻していった。

 

(このGUIは、その後パソコンのOSとしてはごく当たり前のものとなり、最早現在のユーザーはそれ以前にMS-DOSという原始的なシステムがあったことすら知らない状態であろう)

しかしながら、Apple 社は、基本的にこのMac の基本的ソフトである MacOSを公開せず徹底的なクローズド戦略を取った。すなわち、MacOSを搭載したパソコンはアップル社からしか発売されずユーザーはこのMacシリーズの製品群の中から機種を選択するしか余地は無かったのである。

これに対抗して、同様なGUIシステムを持つOSとして登場したのが、MS-DOSを発売していたMicrosoft社 から発売されたWindows システムであった。1995年に発売されたWindows 95は大規模な広告宣伝戦略もあって、社会的話題ともなった。Microsoft 社は Apple 社とは対照的に、徹底的なオープン化戦略で臨んだ。すなわち、Windows は独立したOS として販売され、どの会社のパソコンでも、 Windows 搭載パソコンとして販売でき、市場には、各社から多種多様な製品が発売された。またWindows の仕様はすべて公開されていたので、このOS上で動くアプリケーション=ソフトも各ソフトメーカーから、どんどん発売され、市場には Windows 対応のソフトが溢れた。

当初、Windows は、バグや不具合も多く、システムの先進性でも、Mac には一歩遅れを取る感じで、熱心な Mac ユーザーの間では、「Win は2世代前の Mac OS 」と揶揄される状況もあったが、多数のパソコンメーカー、対応ソフトメーカーを巻き込んで、市場の勢いではMac を追い込んで支配を確立していった。結局、Mac は印刷出版、イラストや美術、建築設計、等グラフィックな仕事をする分野に熱心な固定的ユーザーを持つ一方、パソコンおよびパソコンソフトの一般的分野では、Windows グループが圧倒していった。

すなわち、徹底的なオープン化戦略を取った Microsoft 社が、クローズド化戦略を取った Apple 社に、圧勝する形となったのである。(ただし、この後、ネットにつなぐ個人情報端末として、スマホが主流になってくることで、さらに状況が転換することになる。)

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。