歯科医師会でのネット活用(1)

<現役時代の旧ホームページからの移植です>(2001.12.1 分)

日本歯科評論 THE NIPPON Dental Review Vol.61No.12(2001 12) P.59 掲載


その(1)

PCもネットがなければ,ただの箱?

 かつてマニアックな響きを持っていた「パソコン」 が今や完全に日常的な普通名詞になり,おたく用語 だった「メール」は女子高生はおろか,家庭の主婦 の会話の中にさえ頻繁に飛び交う日常語になった. パソコンがこの世に現れて十数年,インターネット が軍事・研究用のシステムから民間に開放されてか らまだ十年にならない.この間の技術革新と社会状 況の変化を形容する言葉を探すのは難しい.家電店 で安売りされているコンパクトなパソコンは十数年 前のレベルから考えると,あふれんばかりの大容量 メモリー,これでもかという高速処理能力を持った まさにスーパーモンスターマシンであり,それに至 れり尽くせりの最新ソフトを組み合わせれば,ほと んどできないことはない,という贅沢な機器に仕上 がっている
 しかし,その「パソコン」がまるでただの箱に見 える瞬間がある.インターネット接続が当たり前と いう環境に何年かを過ごし,ある日突然(機器の入 れ替え等の際のハプニングで)接続不能状態になっ た瞬間だ.「え?! ネットにつなげなきや,何にもで きないじやん!」というのが,その時の実感だ.今 やパソコンは,それ自体で単独に使う機器というよ りは,ネットワークの中に組み込まれ,その入り口 として,ネットワークにつながるすべての情報世界 と一つになって使う道具なのだ.インターネットに つながれたマシンは,全世界を覆う巨大な情報網と つながり,そのニューロン=ネットワークにつなが る無数のマシンとあらゆる情報を瞬時にやり取りで きるシナプスと化す.ひとたび,その融通無碍な情 報伝達網の中に暮らした人間は,ネットワークから 切り離されたマシンの非力さ,無力さに驚かざるを 得ない.  ほんの5,6年前のわが国のインターネットの黎 明期,個人が利用するには,電話線を使い仲介業者 の中継地点から細々とつなぐしかなかった状況から, 普通の家庭で,高速の常時接続が当たり前になりつ つある現在に至り,人間の社会生活にとってインタ ーネットによる情報伝達は不可欠なライフラインの 一つになりつつある.  この秋,あの衝撃的なニューヨークのテロ事件の 際,筆者はたまたまニューヨークに滞在しており, 国内との連絡,現地の交通事情,航空使の発着事情 等の情報の入手にインターネットなしでは途方に暮 れる状況に置かれて,そのことをあらためて痛切に 実感した
   <緊急Report,64頁参照>.

 筆者は10年ほど前から,歯科医師会組織で情報調 査関係の仕事に関わってきて,組織活動とはすなわ ち情報伝達活動である,という思いが深まるばかり である.インターネットという情報伝達網が社会基 盤の一つとなりつつある状況の中で,その活用とい うものを抜きに,組織活動のあり方は展望できない. 社会のあらゆる分野で,情報伝達のあり方の抜本的 革新が進みつつあり,そのような社会状況のあり方 の変化に対応していかなくては,取り残されていか ざるを得ないからである.
 平成9年の秋,兵庫県歯科医師会では,インター ネットを活用して次の①~③の情報ネットワークシ ステムをスタートさせた.
 すなわち,
①県民向けホームページの開設
②県歯会員専用の情報提供システム
 (イントラネッ  ト)
③役員・委員の連絡用電子会議室
  システム

 これらは当時としては,きわめて先進的な試みで あり,時代の方向性についての執行部全体の理解と 暖かい支援なしではなし得ない事業であった.当初 戸惑い気昧であった事務局も,その方針が執行部全 体としての取り組みであることが明確になって以来, 積極的な姿勢での対応が目立ってきた.3000名を越 す会員を対象に職員数約60名で対応する組織の運営 のための事務量とコストは膨大なものであり,情報 流通のネットワーク化,デジタル化が,その合理化 とコスト削減につながることを幹部職員が理解し始 めたからである.数年をかけてリース切れのワープ ロをネットワーク接続されたパソコンに置き換えて いき,たまたま施工されることとなった会館内の空 調リニューアルエ事の機会を捉えて,全館にLAN ケーブルを敷設した.昨秋には,職員全員に1人1 台のパソコン配布が実現し,事務のネットワーク化 が着実に進んでいった.
 上記の3つのシステムはそれぞれ時期的なズレは あったものの,その試みの先進性は順次証明されて いくこととなった.①の県民向けホームページに関 しては,その時点で全国の都道府県歯のトップグル ープとしての開設であったが,その後ホームページ 開設が相次ぎ,数年のうちにホームページを持たな い都道府県歯はない状態となった.

その(2)に続く

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。