県歯イントラネットの構築

<現役時代の旧ホームページからの移植です>(1998.7.1 分)

歯科専門誌 クイントエッセンス 1998年 7月号 掲載

 前回,歯科医師会組織におけるデジタルコミュニケーションの利用 への取り組みについて,委員会組織等での具体的実務作業での利用 について述べた.
 明石市歯科医師会広報委員会での6年間にわたるDTPへの取り組み と,さらに2年前からのネットワークの活用によって,業務の効率化・ 合理化が飛躍的に進んだ経緯を報告した.
 FirstClassを利用したネットワークシステムは元来,兵庫県歯科医師 会の調査室で実験的に導入したものであり,各種のデータ分析を中心 とした業務を組織において協同作業をする際にも,このシステムは 大きな力を発揮した.
 これらの経験の中で実感したのは,BBS(電子掲示板システム)と 分類されることが多いFirstClassがむしろグループウェアとして利用 される時の絶大な組織的効用であった.このような複数の組織での利用 を(相互に独立した形で)進める中で,より広範な兵庫県歯会員全体で の利用を試みる取り組みも始めた.
 グループウェアからコミュニティウェアへの展開を試みたのである. 個々の委員会内部のような具体的・現実的ニーズではなくとも,同じ 県歯会員として,あるいはさらに広範に同じ歯科医師として共有する 様々な問題について,気軽に情報交換するシステムとして機能させる ことを実験的に取り組んでみることとした. 様々な媒体を通じ,あるいは口コミ等で参加いただいた会員は百名近く に上り,もしこのシステムが稼働していなければ,同じ会員であって もおそらく知り合うことがなかったであろう多くの交流が生まれた.
 このような形でのFirstClassの利用は,このシステムが本来持つ双方向 的情報伝達機能をフルに活かすものであり,従来のコミュニケーション システムでは実現が難しい貴重な特長といえるだろう.
 現在,このようなネットの活用は灘区等の神戸都心部から郊外郡部の地方 会まで,歯科医師会組織の連絡システムとして展開しつつある.

 一方,未だ誰の記憶にも新しいあの大震災に見舞われた兵庫県では, その大災害時の経験と反省から,官民を挙げて,新しい情報通信システム の構築に熱心に取り組んでいる.本県歯科医師会でも,震災関連予算により, インターネットサーバーを中心とした大きな予算規模の設備機器が導入され ており,偶々,今年度より,調査担当理事として,その運用の一端に関わる こととなった.このような課題を前にして,我々の世界とインターネットの 持つ機能をあらためて考え直してみた.
 現在,インターネットは一種 のブーム的状況を呈し,<インターネットバブル>という表現で揶揄される 側面すら生じている.多くの民間企業や各種団体が自らのホームページを 持つことを目指し,周囲が持ち始めている以上,うちだけが無くてはという 横並び的発想で,内容はとにかく形だけでも,という動きすら見られるほど である.
 しかしながら,ホームページはあくまで情報発信の一つの形態であり, <どういう主体が,どういう受信者を対象に,どういう目的で>情報発信を するのか,が明確でなくては,ほとんど意味を持たない.一般に見られる 歯科関係組織のホームページは<一般市民向けに,自らの組織や活動を紹介 し,歯科保健活動推進の一助に>という形が建て前になっているようである.
 それらは確かに重要な対外PR活動とは言えるだろうが,歯科医師会が組織 として活用できるネットワーク利用は勿論それだけに限られるものではない.

 歯科医師会が本来,会員による予算によって,会員のために運用される組織 であることを考えると,そこでの活動が,まず第一に,会員の日々の活動に 直接役立つべきものであることはいうまでもない.そして,あらためて考えて みると,歯科医師会が組織として行う活動の大半は実は情報伝達活動であると 言っても過言ではないことに気づく.ネットワークの情報伝達機能,殊にインター ネット技術を組織内部での情報伝達に活用するシステムをイントラネットシステム と呼ぶ.<間,関係>を意味する<インター>に対し,<内部,内側>を意味する <イントラ>が付いているのはそういう意味である.
 震災時の悲惨な経験と反省から情報伝達の重要性を我々は身に沁みて感じさせ られた.その切実な経験を踏まえて予算化された大きな設備機器を活用して我々 が行うべきことは何より本会の内外にある歯科医療に関する重要な情報を集積し, これを会員の間で共有し簡単に活用できるシステムを作り上げることであろう.

 本年度発足した新執行部の理事会では,このような合意が出来上がりつつあり, 組織を挙げてこのようなシステム作りに取り組む動きが生まれ始めている.
 兵庫県歯科医師会では,本会の他に,歯科学院・国保組合・共済会等,8つの 大きな関連組織がある.本会内部だけでも15の常任委員会があり,事務局内部も 2部8課に分かれ,70名の職員が働いている.また,県下には36の地区に分かれた 地方会が,それぞれに活発な活動を行っている.これらの組織の中に集積されて いる情報量は膨大なものであり,それらを地方の隅々の会員までが等しく共有し 活用できるシステムができれば,会員にとってきわめて有用な情報システムになる のは間違いない.
 イントラネットシステムの中に,各組織毎のそれぞれのホームページを準備構築し, それらの間での緊密なリンクと,また,必要な部分ではデータベースとの連携を図る ことで,それは実現可能であろう.
 このようなシステムでは,

 1)従来の情報伝達形態に比べ,情報
   発信の追加的コストがほとんどかか
   らない.
 2)情報の更新が簡単に行え,常に
   最新情報を発信できる.
 3)情報量にほとんど制限がなく,一部の
   会員にのみ関心のある情報も自由に
   供給できる,
 4)文字情報のみならず,画像等を含む
   データを混在できる,
 5)データベースと連携した情報検索
   システムによる情報提供も可能
 6)一方向的な情報提供のみならず、
   双方向的な情報交流も実現できる

等々,数多くのメリットがある.

 とはいえ,このようなシステムの構築は組織の総力を挙げて実現できるものであり, 決して安易な事業ではない.我々の試みは緒についたばかりであるが,新執行部としての 3年間の任期の大きな目標として,是非実現していきたいと考えている.機会があれば, この経過と成果を報告できることを願っている. 

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。