日歯広報( 8/5、8/15、9/15号 ) 連載コラム 歯科パソコン入門

情報伝達手段としてのネットワークの利用

No.1(8/5号)

 その誕生以来、パソコンを取りまく世界の技術革新と変化のテンポはすさまじいばかりです。しかしながら、この数年の動向の中で起こりつつある重大な質的変化は、パソコンが従来のように一人のユーザーが単独で利用する孤立的な使い方ではなく、むしろ、これらが相互につながったネットワークの存在を前提として、このネットへの入り口としてパソコンを利用するという形が一般的になりつつあるということです。この考え方を徹底して、ネットワークへの接続だけに機能を絞ったパソコンを低価格で商品化しようとする動きも急速化しており、名称すらパソコンではなくネットワーク端末と呼ばれるような商品が間もなく現れそうです。

 パソコンを孤立的な情報処理の道具としてではなく、新しい高機能な情報伝達の道具として見ると、過去十数年の驚異的な技術革新の成果を人間の豊かなコミュニケーションの実現のために生かせる可能性が見えてきました。インターネット等による情報交換が爆発的なブームになった背景にはこういう状況の変化があります。このような状況へ対応するためには、マニアが身内だけで通じる閉鎖的な言葉で話すのではなく、一方、一般の方々もこのような世界を余り難しく考えすぎず、電話やファックスとは種類が違うだけの新しい便利な情報交換の道具と考えて気軽に使ってみるという姿勢が大切ではないか、と思います。このコラムの趣旨はパソコン利用の実際的経験をできるだけ具体的に、とのことですので、我々のネット利用への取り組みの経緯と経験をお伝えし、同様な取り組みを始めておられる全国の会員の方々との情報交流の契機となればと思います。

 我々の取り組みのきっかけは会務に関連したデータファイルの転送という問題でした。パソコンで処理する各種データを関係者間でやりとりすることが多く、これをネットワーク利用でスムーズに行う方法がないものかということから模索が始まりました。関係する会員の中にはパソコンを扱い慣れない者もいました。<初心者でも気軽に扱えること>を第一目標に探すうちに最終的にたどり着いたのが、FirstClassというネットワークシステムでした。画面上を文字が洪水のように流れるという従来のパソコン通信システムとは異なり、カラフルな画像表示での操作はパソコン初心者にとっても十分取っつきやすいシステムでした。当初意図した各種のデータは勿論、伝言メッセージから写真イメージ等の画像データまで、簡単にやりとりできる高機能さに驚き、あっと言う間に、単なるデータ転送システムにとどまらず、関係者間の情報連絡システムとして定着しました。このシステムを利用した経験を次回以降にご報告したいと思います。

 <本稿についてのご連絡は E-mail mmatsuga@kh.rim.or.jp
          またはhttp://www.kh.rim.or.jp/~mmatsuga/のホームページまで>




No.2(8/15号)

 前回述べましたように、会務に関連したデータの転送問題をきっかけに様々なネットワークシステムを検討しました。その際、必要な条件として考慮したのは以下の諸点でした。

 1)パソコンやネットの初心者でも手軽に扱えること
 2)個人が簡単に入手できる一般的なパソコンの主要な機種で利用できること
 3)情報を中継・提供する機器(サーバー)やその運用ソフトの導入費・維持費が小予算ですむこと

 1)は最優先ポイントとして重視しました。幅広い人々の間で実用的に使ってもらえるものでなければ、そもそもシステムとして成立し得ないからです。2)も、やはり多数の人に気軽に使っていただくためには必須です。3)に関して言えば、我々のネット利用は企業のように大量のデータが時々刻々行き交うものとは異なることを十分認識する必要があります。企業等では、情報処理の効率化が大きなコスト削減に直結します。その削減分で情報化投資や維持費用を考えればいいわけです。我々の場合、それは生活を少し便利に豊かにしてくれる新しい道具と考えるべきで直接的な経済的効果をすぐに期待できるものではありません。過大な投資や継続的な維持コストは予想外の負担をもたらし関係者に重荷となる可能性があります。

 FirstClassはMacintoshもしくはWindows NT上のサーバー運用システムとして開発されたものです。スターターセットは十万円以下という手軽な価格でありながら、千人規模のネット構築でも百万円以下の追加費用で可能になります。

 接続はMacintoshおよびWindowsマシンのいずれでも可能です。

 初心者にとっての操作の易しさという点では、これ以上のシステムはないのではないかと思われます。このシステムを実験的に利用し始めて一年近くになりますが、女性メンバーや会員家族の小学生(!)等を含む多くのメンバーの間で活発な利用が進んでいるのはその証拠といえるでしょう。

 利用しているメンバーの使い方は様々です。個人間のメッセージのやりとりやグループによる共通会議室内での連絡・報告・相談、各種のデータファイルの転送、あるいはまた、歯科医院と技工所間での画像データの交換に取り組んでいる例もあります。音声等のサウンドファイルの転送もごく簡単に行えます。

 新しい情報化社会のキーワードをまとめてネオダマ(ネットワーク・オープンシステム・ダウンサイジング・マルチメディア)とよく言われますが、このようなシステムはネットワーク構築を行い、特定機種のみによる閉鎖的なシステムではなく広範なパソコンによる利用が可能なオープンシステムを実現し、従来の大型機やオフコンのホストからパソコンサーバーへの小型化(ダウンサイジング)を可能にし、画像・音声等のマルチメディアデータの転送も可能にする等々、まさに新しい情報化社会を実現するコンパクトなシステムの一例ではないかと思われます。




No.3(9/15号)

 FirstClass は従来からの概念で分類すれば、パソコン通信のホスト開設システムというものに入れられることが多いようです。しかしながら、経験を通して実感するところでは、このシステムが想定し、目指しているコミュニケーションのあり方はそのような分類に入りきらず、むしろ現在企業社会で注目されているグループウェアというものに近い感じがします。

 グループウェアとはネットワーク上で、共通の目的の下にグループとして協同作業を行うためのシステムです。企業等で使われているものは巨大なデータベースとの連携、大量のデータ処理等、ビジネス用途にふさわしい機能が強化されています。FirstClass ではそういった機能よりは、システム構築の手軽さ、利用者の使いやすさといった面への配慮が目立ちます。

 その意味では、我々のように遠隔地に分散している会員の間で会務を進める協同作業の支援システムとして、気軽に利用してみるのに打ってつけとも言えるでしょう。

 事実、今回の取り組みのきっかけとなった組織ではネット上の委員会システムが本格的に稼働し始め、震災後の緊縮予算の中での活動の強力なアシスト役を果たしつつあります。また、ある広報関係組織では、組織連絡にとどまらず、ネット上での協同編集、さらには印刷会社へのデータ転送まで行い、居ながらにしての印刷システムにこぎつけている例もあります。

 他方、その優しい操作性を活用し、単なる実務的機能を越えたコミュニケーション空間を創り出すことも勿論可能です。従来のパソコン通信の世界がややもすればマニアックなイメージを持ち、普通の人が近寄り難い傾向があったのはその操作の難解さが障壁となって参加するメンバーが限定され、必然的にその話題も特定分野に偏りがちだったせいもあるでしょう。多くの普通の人々が日常的活動のための手段として、気軽にネットを利用できる状況が実現できれば、実務のためのアクセスのついでにちょっと立ち寄るオープンな情報空間を用意しておくだけで、ネットを通しての気楽な交流が自然に生まれます。ネット上での交流をベースにしたグループで釣り会が企画されたり、ビアパーティが開かれるといったこともあります。このシステムを「コミュニティウェア」と呼んだ人がいます。確かにネット上にコミュニティを生み出すソフトという表現がこのシステムの本質を言い当てているような気がします。

 さらに、FirstClassにはサーバー機同士を連携させるゲートウェイ機能というものがあります。このような機能をうまく活用すれば、各地に生まれてくるサーバー間で連携をはかり、ネットを単一の一点集中的な形ではなく、災害等の非常事態にも強い多核的な柔構造を持つネットへ発展させていくことが可能になります。次の課題として取り組んでいきたいことの一つです。

 我々の実験的サーバーを本稿で公開してはという提案を読者の方からいただきました。別記の通りです。接続用ソフトや接続法等については最近発行された「FirstClass入門(NTT出版)」に詳しく書かれています。ご自由にお試し下さい。

 限られたスペースには書き尽くせないことも多くありますが、今後各地でのネット活用が進むことを祈りつつ稿を終わりたいと思います。